事件や事故のニュースで、
「身元不明の遺体が発見された」
と報じられることがあります。
すると、
「名前も分からないのに、どうやって本人を特定するの?」
「DNAを調べればすぐ分かる?」
「白骨化していても身元は分かる?」
「歯や指紋はどんなふうに使うの?」
と疑問に思いますよね。
身元確認では、一つの方法だけを使うわけではありません。
遺体の状態に応じて、
- DNA
- 歯科所見
- 指紋
- 身体的特徴
- 医療記録
- 所持品
- 行方不明者情報
などを組み合わせます。
日本の死因究明等推進基本法でも、身元確認とは「死体の身元を明らかにすること」とされ、遺伝子構造の検査や歯牙の調査などの科学調査を充実させることが定められています。
この記事では、身元不明遺体がどのように本人確認されるのか、それぞれの方法で何が分かるのかを解説します。
身元不明遺体の確認では何を調べる?
身元確認では、
「この人は誰なのか」
を一つの証拠だけで決めるのではなく、複数の情報を集めて候補者と照合します。
遺体そのものから情報を集める
遺体から確認できる情報には、
- 性別
- 推定年齢
- 身長
- 歯
- 指紋
- DNA
- 手術痕
- 古い骨折
などがあります。
遺体の状態によって使える情報は変わります。
行方不明者などの生前情報と比較する
一方で、
- 行方不明者届
- 歯科記録
- 医療記録
- 本人が使っていた物
- 親族のDNA
など、生前の情報も集めます。
つまり身元確認とは、
遺体側の情報と、生前の人物側の情報を照合する作業
と考えると分かりやすいでしょう。
DNAではどうやって身元確認する?
身元確認で非常に重要なのがDNA型鑑定です。
特に外見から本人確認できない場合に大きな役割を持ちます。
本人由来のDNAと比較する
本人が使っていた資料などから比較可能なDNAが得られる場合には、遺体から採取したDNA型と照合することがあります。
複数のDNA型の特徴が一致するかを確認します。
親族のDNAと比較する
本人由来の比較資料がない場合には、親族との遺伝的な関係を利用する場合があります。
親子や兄弟などではDNAの一部を共有するため、身元確認の重要な手掛かりになります。
DNA型鑑定そのものについては、
DNA鑑定はどこまで正確?一致したら本人確定なのかをわかりやすく解説
でも詳しく解説しています。
白骨化していてもDNAは調べられる?
状態によっては可能です。
軟部組織が失われていても、骨や歯からDNAを得られる場合があります。
骨や歯からDNAを調べることがある
骨や歯は比較的長く残るため、白骨化した遺体の身元確認で利用されます。
特に他の資料が残っていない場合には重要です。
DNAが劣化している場合もある
ただし、
- 高温
- 水
- 土壌
- 長期間の経過
などによってDNAが劣化している場合があります。
そのため、
骨があれば必ずDNA型が得られる
わけではありません。
白骨化した遺体から何がわかる?DNA・身元・死亡時期・死因の鑑定を解説
でも詳しく解説しています。
歯からどうやって本人確認する?
歯も身元確認の重要な手段です。
日本の法律でも、身元確認のための科学調査として遺伝子検査と並び、歯牙の調査が明記されています。
治療痕や歯の状態を記録する
遺体について、
- 抜けている歯
- 虫歯
- 詰め物
- 被せ物
- ブリッジ
- インプラント
などを確認します。
人によって治療歴の組み合わせが異なるため、重要な個人識別情報になります。
生前の歯科記録と照合する
遺体の歯科所見と、
- 歯科カルテ
- レントゲン画像
- 過去の治療記録
などを比較します。
国も身元確認の科学調査や歯科診療情報の標準化、データベース整備を施策として進めています。
詳しくはこちらで解説しています。
歯から身元が分かるのはなぜ?歯科記録で個人を特定する仕組みを解説
指紋ではどうやって本人確認する?
指紋が採取できる状態であれば、身元確認に利用できる場合があります。
生前に記録された指紋と比較する
比較対象となる指紋が存在すれば、遺体から採取した指紋と照合します。
指紋は一人ひとり異なる特徴を持つため、個人識別に利用されています。
遺体の状態によっては採取が難しくなる
一方、
- 腐敗
- 損傷
- 長期間の経過
などによって、通常の方法では指紋を採取しにくくなる場合があります。
そのため遺体の状態によって、DNAや歯科所見など別の方法が重要になります。
指紋鑑定についてはこちらも参考にしてください。
指紋はどれくらい残る?拭いた後でも見つかることはあるのかを解説
身体的な特徴から何が分かる?
DNAや歯だけでなく、遺体に残る身体特徴も候補者を絞る材料になります。
手術痕や古いけがを確認する
たとえば、
- 手術痕
- 古い骨折
- 人工関節
- 骨に入れられたプレート
などです。
生前の医療記録が見つかれば、遺体の特徴と比較できる場合があります。
ほくろや入れ墨なども手掛かりになる
遺体の状態によっては、
- ほくろ
- 傷跡
- 入れ墨
- 身体的特徴
なども確認します。
ただし、こうした特徴だけで最終的な身元確認をするのではなく、他の情報と組み合わせます。
骨からどんな人物だったか分かる?
白骨化している場合には、骨格そのものから人物像を考えます。
法医人類学が関わる分野です。
性別や年齢などを推定する
骨格の特徴から、
- 生物学的性別
- 年齢層
- 身長
などを推定できる場合があります。
これによって行方不明者の候補を絞れます。
古い骨折や治療痕も利用する
過去の骨折が治った痕跡などが残っていれば、生前の医療記録との比較に利用できる場合があります。
骨折は生前か死後か分かる?骨から分かる外傷の違いを法医学で解説
でも詳しく解説しています。
所持品は身元確認にどう使われる?
遺体と一緒に発見された所持品も重要な手掛かりです。
ただし、
所持品だけで本人と確定するとは限りません。
身分証や携帯電話などを確認する
たとえば、
- 運転免許証
- 財布
- 携帯電話
- 鍵
- 時計
- 衣類
などが候補者を絞る材料になります。
所持品と本人が一致するか確認する
身分証があったとしても、
その身分証の持ち主=遺体
と自動的に決まるわけではありません。
別人の物を所持している可能性もあるからです。
そのため身体特徴、DNA、歯科所見などと照合します。
衣服や装身具も手掛かりになる?
身元が分からない場合には、身につけていた物も詳しく記録します。
衣類の特徴から候補を探す
- ブランド
- サイズ
- 色
- 模様
- 靴
などから、家族や知人が気づく場合があります。
時計やアクセサリーも確認する
時計、指輪、ネックレスなどが特徴的であれば、候補者を絞る手掛かりになります。
ただし、これらも本人確認の補助情報であり、
科学的な個人識別とは別
に考える必要があります。
行方不明者情報とはどう照合する?
身元不明遺体の確認では、行方不明者との照合も重要になります。
年齢や身長などを比較する
まず、
- 性別
- 推定年齢
- 身長
- 発見地域
- 行方不明になった時期
などを比較して候補者を絞ります。
DNAや歯科記録で確認する
候補者が見つかれば、
- DNA
- 歯科記録
- 医療記録
など、より個人識別力の高い情報で確認を進めます。
行方不明届を出すと警察はどこまで調べる?捜索されるケースと仕組みを解説
でも詳しく解説しています。
遺体の一部しかなくても身元確認できる?
可能な場合があります。
身体全体が見つかっていなくても、残された組織や骨などから情報を得られることがあります。
DNAから本人を絞れる場合がある
一部の遺体から十分なDNAが得られれば、本人や親族との比較が可能な場合があります。
歯や特徴のある骨が役立つこともある
発見された部分に、
- 歯
- 治療された骨
- 特徴的な身体情報
などが含まれていれば、身元確認に利用できることがあります。
遺体の一部しか見つからなくても身元はわかる?DNA鑑定と個人識別の仕組みを解説
でも詳しく解説しています。
DNAが一致すればすぐ身元確定になる?
DNAは非常に強力な個人識別手段ですが、
比較する相手が必要
というポイントがあります。
比較対象がなければ名前までは分からない
遺体からDNA型を取得できても、それだけで、
「この人は○○さん」
と名前が自動表示されるわけではありません。
比較する本人資料や親族などのDNAが必要になります。
他の情報との整合性も確認する
候補者の、
- 年齢
- 性別
- 行方不明時期
- 歯科所見
- 身体特徴
などとも矛盾がないか確認します。
つまり、
DNAは非常に強い証拠ですが、身元確認全体の中で評価される
のです。
顔を見れば本人確認できるのでは?
遺体の状態が良ければ、外見が候補者確認の手掛かりになる場合があります。
しかし、外見だけに依存するのは問題があります。
死後変化で顔貌が変わることがある
死亡後には、
- 腫れ
- 変色
- 腐敗
などによって顔つきが変化することがあります。
そのため、生前の写真と単純に比べるだけでは難しい場合があります。
外見以外の客観的情報で確認する
最終的な確認では、
- 指紋
- DNA
- 歯科所見
- 医療記録
など客観的な資料が重要になります。
特に遺体の損傷や腐敗が進んでいる場合には、外見以外の方法が中心になります。
身元確認に時間がかかるのはなぜ?
ニュースでは、
「遺体の身元を確認しています」
という状態が何日も続くことがあります。
これには理由があります。
比較する資料を集める必要がある
DNAや歯科所見を持っていても、
比較対象がなければ身元は決まりません。
候補者の、
- 家族
- 歯科医院
- 医療機関
などから比較資料を集める必要があります。
複数の情報を確認する必要がある
一つの情報だけで急いで決めると、取り違えにつながる危険があります。
そのため、
複数の独立した情報が一致するか
を慎重に確認します。
身元確認は、速さだけでなく正確性が非常に重要なのです。
大規模災害ではどうやって身元確認する?
大規模災害では、多数の身元不明遺体が発生する可能性があります。
そのため平時以上に、情報を系統的に整理する必要があります。
DNA・歯・指紋などを組み合わせる
災害時にも、
- 指紋
- 歯科所見
- DNA
- 身体特徴
などを利用します。
日本では大規模災害時だけでなく平時の身元確認についても、科学調査やデータベースの整備を進めることが法律で定められています。
生前情報と死後情報を照合する
多数の人を確認する場合には、
生前情報と死後情報を整理して比較すること
が特に重要になります。
政府の死因究明等推進白書でも、身元確認の科学調査やデータベース整備は基本施策の一つとして継続されています。
身元確認で分かること・分からないこと
身元確認では多くの科学技術が利用されますが、本人が分かったからといって事件全体が分かるわけではありません。
身元確認で分かる可能性があること
調査によって、
- 遺体が誰なのか
- 行方不明者と同一人物か
- 生前の治療歴との一致
- 親族との遺伝的関係
などを確認できる場合があります。
身元確認だけでは分からないこと
一方、
- なぜ死亡したのか
- いつ死亡したのか
- 犯罪が関係しているのか
- 誰が死亡に関与したのか
などは、身元確認とは別に調べる必要があります。
そのため、
身元確認と死因究明は関連しているものの、目的は別
です。
まとめ
身元不明遺体の本人確認では、一つの方法だけでなく複数の情報を組み合わせます。
ポイントをまとめると、
- 遺体側の情報と生前情報を照合する
- DNAは本人資料や親族DNAなどと比較する
- 白骨化していても骨や歯からDNAが得られる場合がある
- 歯科所見は生前のカルテやレントゲンと比較する
- 指紋が採取できれば本人確認に使える場合がある
- 手術痕や古い骨折も手掛かりになる
- 所持品だけで本人確定とはならない
- 衣服や装身具は候補者を絞る補助情報になる
- 行方不明者情報と年齢や身長などを比較する
- 遺体の一部だけでも身元確認できる場合がある
- DNAだけでは比較対象がなければ名前までは分からない
- 顔貌は死後変化で変わることがある
- 複数の情報を確認するため身元特定に時間がかかる場合がある
- 大規模災害でもDNA・歯・指紋などを組み合わせる
- 身元が分かっても死因や事件性は別に調べる必要がある
という点が重要です。
ニュースで、
「身元確認を進めています」
という一文だけを見ると、単純な確認作業のように感じるかもしれません。
しかし実際には、
DNA、歯科記録、指紋、骨、医療情報、所持品、行方不明者情報などを一つずつ照らし合わせる
非常に重要な調査です。
そして、
「この遺体は誰なのか」
が明らかになることで初めて、
死亡前の行動や病歴、交友関係などをたどり、
「なぜ亡くなったのか」
という死因究明や事件捜査へつながっていくのです。
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