事件のニュースで、
「DNA型鑑定の結果、本人と判明しました」
「現場のDNA型と容疑者のDNA型が一致しました」
という言葉をよく聞きます。
すると、
「DNAが一致したら100%その人なの?」
「骨しかなくてもDNAは分かる?」
「兄弟や親子なら同じDNAにならないの?」
「DNA鑑定って間違うことはないの?」
と疑問に思いますよね。
DNA型鑑定は、現在の科学捜査で非常に強力な個人識別手段です。
警察では主にSTR型検査法という方法を使い、DNAの中にある特定の部分の特徴を複数比較して個人を識別します。
ただし、
「DNAが一致した」という言葉だけで事件のすべてが証明されるわけではありません。
重要なのは、
- どこから採取されたDNAなのか
- 何と何を比較したのか
- 資料が混ざっていないか
- そのDNAがいつ付着したのか
などです。
この記事では、DNA型鑑定はどこまで正確なのか、「一致」とは何を意味するのかをわかりやすく解説します。
DNA鑑定とは?
一般に「DNA鑑定」と呼ばれていますが、警察の科学捜査ではDNA型鑑定という言葉が使われます。
DNAそのもの全部を読み取っているわけではありません。
DNAの特徴的な部分を比較する
人のDNAは大部分が共通しています。
そこで個人差が出やすい部分を調べ、
DNAの特徴の組み合わせ
を比較します。
警察庁によると、現在の警察のDNA型鑑定では主にSTR型検査法が使われています。
STRとは?
STRは「Short Tandem Repeat」の略です。
DNAの中には、短い配列が繰り返されている部分があります。
その繰り返し回数には個人差があります。
たとえばイメージとして、
Aさんはある場所が10回繰り返し、
Bさんは12回、
Cさんは15回、
という違いがあります。
こうした場所を複数調べることで、個人識別の精度を高めます。
DNAが一致したら本人確定なの?
ここが一番気になるところでしょう。
DNA型が多数の検査部位で一致すれば、
同じ人物に由来する可能性は非常に高くなります。
ただし、科学的には、
「100%絶対に本人」
という表現ではなく、統計的な確率を使って評価する考え方が基本です。
一致する型が多いほど偶然一致しにくくなる
一つのDNA型だけなら、同じ型を持つ別人がいる可能性があります。
しかし複数の場所を同時に比較すると、
すべて偶然同じになる可能性は非常に小さくなります。
そのためSTR型検査は高い個人識別力を持っています。
「一致」と「その人が犯人」は別
ここは重要です。
現場から採取されたDNA型とAさんのDNA型が一致したとしても、
それだけで、
Aさんが犯罪を行った
と証明されるわけではありません。
DNA型鑑定が示すのは基本的に、
「このDNA資料がAさんに由来する可能性が高い」
ということです。
なぜそこにDNAがあったのかは別に調べる必要があります。
DNAが一致しても犯人とは限らない理由
たとえば事件現場が自宅だった場合を考えてみましょう。
そこから家族のDNAが見つかっても不思議ではありません。
普段からその場所にいた可能性がある
DNAは、
- 血液
- 唾液
- 皮膚片
- 体液
などから検出される場合があります。
普段から触っている場所であれば、事件とは無関係にDNAが残っている可能性があります。
いつ付着したか分からない場合がある
DNA型鑑定から、
そのDNAが何月何日の何時に付着したか
まで分かるわけではありません。
そのため、
「DNAがあった」
ことと、
「犯行時にそこにいた」
ことは別に考える必要があります。
他の証拠と組み合わせる
実際の捜査では、
- 防犯カメラ
- スマホ
- 指紋
- 証言
- 血痕の位置
- 行動履歴
などとDNA型鑑定を組み合わせて判断します。
警察はどうやって行動履歴を特定する?スマホやデータ分析の仕組みを解説
も参考にしてください。
DNA型鑑定では何と何を比較する?
DNA型鑑定では通常、比較対象となる資料が必要です。
科学警察研究所も、現場資料と対照資料の双方からDNA型を検出し、異同を識別することで鑑定情報が得られると説明しています。
犯罪現場の資料と比較する
たとえば、
犯罪現場から採取された血痕
と、
容疑者から採取した資料
を比較します。
両方のDNA型が一致するかを確認します。
遺体と本人資料を比較する
身元不明遺体の場合、
遺体から得られたDNA型と、
本人由来と確認できる資料
を比較できる場合があります。
遺体と家族のDNAを比較する
本人資料がない場合には、親族のDNAとの比較が身元確認に使われることもあります。
親子ならDNAは同じ?
親子はDNAを共有していますが、
まったく同じDNA型ではありません。
子どもは父親と母親からDNAを受け継ぎます。
親子関係には特徴がある
STR型を見ると、子どもが持つ型は父親か母親から受け継いでいることを確認できます。
そのため親子関係の推定にもDNA型が使われます。
兄弟も同じではない
兄弟姉妹も多くのDNAを共有していますが、通常はDNA型の組み合わせが異なります。
そのため個人識別が可能です。
ただし血縁関係がある人同士では、無関係な人より似た型を持つ可能性があります。
一卵性双生児はどうなる?
DNA型鑑定でよく出てくる疑問が、
「一卵性双生児なら区別できる?」
というものです。
一卵性双生児は同じ受精卵から分かれるため、一般的なDNA型鑑定では非常によく似たDNAを持っています。
そのため通常のSTR型検査では区別が難しい場合があります。
つまり、
DNA型鑑定にもケースによって限界がある
ということです。
骨からDNA鑑定できる?
できます。
骨や歯にはDNAが残っている場合があります。
そのため白骨化した遺体でも、保存状態がよければDNA型鑑定が可能です。
骨の内部からDNAを調べる
長期間経過した骨では表面が劣化していることがあります。
そこで骨内部などから資料を採取し、DNAを抽出します。
歯も重要
歯は硬く、周囲の環境から内部を守りやすいため、身元確認で重要な資料になる場合があります。
白骨遺体についてはこちらで詳しく解説しています。
白骨化した遺体から何がわかる?DNA・身元・死亡時期・死因の鑑定を解説
遺体の一部だけでもDNA鑑定できる?
遺体全体が見つかっていなくても、一部の骨や歯などからDNA型を取得できる場合があります。
そのため、
遺体の一部しか発見されていなくても身元確認につながる可能性があります。
遺体の一部しか見つからなくても身元はわかる?DNA鑑定と個人識別の仕組みを解説
で詳しく解説しています。
古い骨でもDNAは残る?
DNAは永久に同じ状態で残るわけではありません。
時間とともに劣化します。
環境によって保存状態が違う
DNAの保存には、
- 温度
- 湿度
- 水
- 土
- 微生物
などが影響します。
そのため、
「死後○年なら必ずDNAが取れる」
とは言えません。
検査できない場合もある
DNAが大きく分解されていたり、十分な量が残っていなかったりすれば、完全なDNA型を得られない場合があります。
そのときは、
- 歯科記録
- 骨の特徴
- 所持品
など、別の身元確認方法を組み合わせます。
DNAが混ざることはある?
あります。
事件現場には複数の人物のDNAが存在する場合があります。
複数人のDNAが混合する
たとえば、多くの人が触った物から資料を採取すると、複数人のDNAが混ざる可能性があります。
こうした資料は「混合資料」として解析する必要があります。
混ざっているほど解析が複雑になる
一人分だけのDNA資料と比べ、複数人が混ざった資料では、
「どの型が誰のものなのか」
を判断する作業が難しくなります。
そのためDNA型鑑定では、資料の状態も非常に重要です。
DNA鑑定で性別も分かる?
DNA型鑑定では、検査方法によって性別に関する情報を得られる場合があります。
一方、白骨遺体では、
- 骨盤
- 頭蓋骨
などからも性別を推定します。
つまり身元確認では、
DNAだけではなく骨の特徴なども合わせて判断する
場合があります。
DNA鑑定で年齢は分かる?
一般的なDNA型鑑定の目的は、
個人識別
です。
そのため、
「このDNAは48歳の人」
というように年齢を直接判定する検査ではありません。
年齢については骨や歯など別の資料から推定することがあります。
つまり、
DNA型=人物を識別する情報
と考えると分かりやすいでしょう。
DNA鑑定で死因は分かる?
基本的に別の話です。
DNA型鑑定で分かるのは主に、
誰に由来する資料なのか
です。
一方、
「なぜ死亡したのか」
については、
- 解剖
- 病理検査
- 薬物検査
- 外傷
などから調べます。
そのため、
DNAで身元は判明したが死因は不明
ということがあります。
死因不明とはどういう意味?司法解剖をしても分からないことがある理由
でも詳しく解説しています。
DNA型データベースとは?
警察ではDNA型記録をデータベース化し、犯罪捜査や身元確認に活用しています。
犯罪捜査に使うDNA型
警察庁によると、
- 被疑者から採取した資料のDNA型
- 犯罪現場に残された資料のDNA型
などを登録し、未解決事件の捜査や余罪確認などに利用しています。
身元不明遺体の確認にも使われる
犯罪捜査だけではありません。
警察庁は、
- 身元不明死体のDNA型
- 特異行方不明者
- その実子・実父・実母など
に関するDNA型記録も、身元確認に活用しています。
そのため、何年も行方不明だった人物が、後に発見された遺体とのDNA型照合から判明するケースも考えられます。
行方不明届についてはこちらで解説しています。
行方不明届を出すと警察はどこまで調べる?捜索されるケースと仕組みを解説
DNAが一致しなかったら別人?
比較した検査部位で明確に矛盾する型が確認されれば、
同一人物ではないと判断する重要な材料
になります。
これは身元確認でも重要です。
たとえば、
「この骨は行方不明のAさんでは?」
という候補があっても、DNA型が合わなければ別人の可能性が高くなります。
つまりDNA型鑑定は、
本人を特定するだけでなく、候補から除外する
ためにも利用されます。
DNA鑑定は間違うことがない?
DNAという科学そのものの識別力は非常に高いですが、
鑑定には人が資料を採取・管理・分析する工程があります。
そのため、
「DNA鑑定だから何も確認する必要がない」
というわけではありません。
資料の取り違えを防ぐ
どの現場から何を採取したのか、適切に管理する必要があります。
汚染を防ぐ
採取する人などのDNAが混入しないよう慎重に扱います。
検査方法の信頼性を確認する
科学警察研究所では、新しいDNA型分析システムや検査キットなどについて検証を行い、検査手法の信頼性向上に関する研究も続けています。
つまりDNA型鑑定では、
検査技術だけでなく、資料の管理や検査手順も重要
なのです。
DNA型が一致したときニュースはどう読めばいい?
事件報道で、
「DNA型が一致した」
と聞いたら、次の点を分けて考えると分かりやすくなります。
誰のDNAなのか
まず、
「この資料が誰に由来するか」
という情報です。
どこから見つかったのか
同じDNAでも、
- 被害者宅
- 容疑者宅
- 遺体
- 凶器
- 車
など、発見場所によって意味が変わります。
なぜそこにあるのか
事件以前からそこに存在していた可能性はないか。
事件時に付着した可能性が高いのか。
ここを他の証拠と合わせて考えます。
つまり、
DNA型の一致は非常に強い証拠になり得ますが、その証拠が事件の何を証明しているのかが重要
ということです。
自白とDNAが一致するとどうなる?
本人が、
「ここで被害者を負傷させた」
と話し、
その場所から被害者のDNAを含む血痕が発見された場合、
供述を裏付ける重要な材料になります。
自供だけで有罪になる?裏付け捜査とは何をするのかをわかりやすく解説
で解説したように、自白だけではなく客観的な証拠との一致が重要です。
一方、
DNAが見つかっただけで、
いつ・どのように・誰が犯罪を行ったのか
まで全部分かるわけではありません。
まとめ
DNA型鑑定は、現在の科学捜査で非常に高い個人識別力を持つ方法です。
ポイントをまとめると、
- 警察では主にSTR型検査法が使われている
- DNAの特徴的な部分を複数比較して個人識別する
- 一致する検査部位が多いほど偶然一致の可能性は低くなる
- DNA型が一致しても、それだけで犯人だと決まるわけではない
- DNAがいつ付着したかまでは通常分からない
- 親子や兄弟でも通常はDNA型を区別できる
- 一卵性双生児では通常のDNA型鑑定で区別が難しい場合がある
- 骨や歯からDNA型を調べられることがある
- 遺体の一部からでも身元確認につながる場合がある
- 古い資料ではDNAが劣化していることもある
- 複数人のDNAが混ざると解析が複雑になる
- DNA型データベースは犯罪捜査だけでなく身元不明遺体の確認にも使われている
- DNA型は他の証拠と組み合わせて評価することが重要
という点が重要です。
ニュースで、
「DNA型が一致しました」
と聞くと、
「これでもうすべて確定した」
と思ってしまいがちです。
しかしDNA型鑑定が強く示すのは、
その資料が誰に由来する可能性が高いか
という部分です。
そこからさらに、
「なぜそこにあったのか」
「いつ付着したのか」
「事件とどう関係するのか」
を、防犯カメラやスマホ、供述など他の証拠と組み合わせて確認していくのが実際の捜査なのです。
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