ニュースで、
「死因は不明です」
「司法解剖を行いましたが、死因は特定できませんでした」
という報道を見ることがあります。
すると、
「解剖までしたのに、なぜ分からないの?」
「死因って必ず何かあるはずでは?」
「死因不明なら事件なの?」
と疑問に思いますよね。
人が死亡すれば、当然そこには何らかの原因があります。
しかし、医学的にその原因を特定できるかどうかは別問題です。
時間が長く経過していたり、遺体が白骨化していたりすると、死因を判断するための重要な情報が失われることがあります。
また、解剖だけでなく、
- 現場の状況
- 生前の病歴
- 薬物・毒物検査
- 画像検査
- 組織検査
などを組み合わせても、最終的に原因を断定できない場合があります。
この記事では、ニュースで使われる「死因不明」とはどういう状態なのか、司法解剖をしても分からないことがある理由を解説します。
死因不明とはどういう意味?
死因不明とは、
死亡した原因を医学的に特定できていない状態
を指します。
「原因が存在しない」という意味ではありません。
死亡していることと死因が分かることは別
たとえば遺体が発見されれば、その人が死亡していること自体は明らかです。
しかし、
- 病気で死亡したのか
- 事故なのか
- 中毒なのか
- 窒息なのか
- 他人の行為によるものなのか
は別に調べなければなりません。
つまり、
「死亡した事実」
と
「なぜ死亡したか」
は別の問題です。
「不詳」と記載されることもある
死亡診断書や死体検案書では、検査結果がまだ出ておらず死因を確定できない場合、
「不詳(検索中)」
と暫定的に扱われることがあります。
その後、薬物検査や病理検査などの結果が出れば、死因が確定する場合があります。
一方、検査を行っても最終的に分からなければ、「不詳」のままになることもあります。
死亡診断書と死体検案書は何が違う?
ニュースで死因を理解するうえで、
死亡診断書
と
死体検案書
の違いも知っておくと分かりやすくなります。
死亡診断書
生前から医師が診療していた病気などに関連して死亡したと判断できる場合に交付されます。
たとえば、長期間がん治療を受けていた患者が、そのがんによって死亡したと判断できるケースなどです。
死体検案書
一方、
- 医師の診療を受けていなかった
- 自宅などで突然死亡していた
- 死亡した状態で発見された
- 死因が分からない
などの場合には、死体検案書が交付されることがあります。
厚生労働省も、死亡した状態で発見され死因が不明な場合などに死体検案書が用いられると説明しています。
死因はどうやって調べる?
死因を調べる方法は、解剖だけではありません。
複数の情報を組み合わせます。
遺体の外側を確認する
まず、
- 傷
- 出血
- あざ
- 変色
- 骨折の疑い
など、外表から確認できる特徴を調べます。
外傷がある場合、それが死亡と関係しているかを確認します。
生前の病歴を確認する
本人に、
- 心臓病
- 脳血管疾患
- がん
- 糖尿病
- てんかん
などの病歴があれば、死亡原因を考える重要な情報になります。
服用していた薬も確認される場合があります。
現場の状況を確認する
遺体だけでなく、
- どこで発見されたか
- 周囲に薬があったか
- 転落した形跡があるか
- 血痕があるか
- 暖房器具などが使われていたか
といった現場の情報も重要です。
死因は遺体だけを見て判断するものではありません。
司法解剖とは?
犯罪との関係が疑われる遺体などについて、死因や死亡状況を調べるために行われる解剖があります。
その一つが司法解剖です。
体の内部を詳しく調べる
解剖では、
- 頭部
- 胸部
- 腹部
- 臓器
- 血管
などを調べます。
外から見ただけでは分からなかった、
- 内出血
- 臓器損傷
- 病変
などが見つかる場合があります。
死亡原因につながる病気が見つかることもある
たとえば突然死では、
- 心臓
- 大動脈
- 脳
などに重大な病変が見つかる場合があります。
解剖によって初めて死亡原因が明らかになるケースもあります。
司法解剖をすれば必ず死因が分かる?
ここが最も大きな疑問です。
結論からいうと、
解剖をしても死因が特定できないことはあります。
厚生労働省が紹介している研究では、臨床的に死因が不明だった症例の多くは解剖によって診断できた一方、すべてが解明されたわけではありません。
解剖で見えるのは残っている変化
解剖は非常に有力な死因究明手段ですが、
死亡した瞬間を直接見ることはできません。
遺体に残っている変化から、
「何が起きた可能性が高いか」
を調べます。
そのため、死亡原因となった変化が遺体に残っていなければ判断が難しくなります。
死因によっては明確な痕跡が残らない
死亡原因によっては、臓器などに特徴的な変化がほとんど残らないことがあります。
また、
- 心臓の電気的異常
- 一部の窒息
- 一部の中毒
などでは、解剖所見だけでは判断が難しい場合があります。
そのため、解剖以外の検査も必要になります。
薬物・毒物検査をすることもある
死因が外見や解剖だけで分からない場合、血液や尿などを使った検査が行われることがあります。
医薬品を調べる
体内にどのような薬が存在していたかを確認します。
処方薬でも、大量に摂取した場合などは死亡に関係することがあります。
アルコールを調べる
血中アルコール濃度などを調べることもあります。
事故や急性アルコール中毒などとの関連を検討します。
毒物を調べる
状況によっては、有害な化学物質などについて検査する場合もあります。
ただし、
検査したすべての物質が検出できるわけではありません。
何を検査するか、どれくらい時間が経過しているかなども影響します。
病理検査とは?
解剖では、臓器を目で見るだけではありません。
組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べることがあります。
これが病理検査です。
肉眼では分からない変化を調べる
臓器を見ただけでは正常に見えても、細胞レベルでは異常があることがあります。
病理検査によって、
- 心臓
- 肺
- 肝臓
- 脳
などの細かな変化が見つかる場合があります。
結果が出るまで時間がかかることもある
そのため、ニュースでは最初、
「死因不明」
と報じられ、
後日、
「詳しい検査の結果、○○による死亡と判明」
と報道が変わることもあります。
死因究明は、その日のうちにすべて終わるとは限りません。
白骨化すると死因が分かりにくくなる理由
白骨化した遺体では、特に死因を特定するのが難しくなることがあります。
理由は、死因を判断するための多くの組織が失われているからです。
臓器が残っていない
病気や中毒などでは、
- 心臓
- 脳
- 肺
- 肝臓
などを調べることが重要です。
しかし白骨化すると、こうした軟部組織が残っていない場合があります。
そのため死因を判断する情報が減ります。
皮膚や筋肉の傷が確認できない
刺し傷や打撲などでも、骨まで傷つくとは限りません。
皮膚や筋肉だけに損傷があった場合、白骨化するとその痕跡が失われる可能性があります。
骨に残る外傷なら分かる場合がある
一方、
- 頭蓋骨の損傷
- 骨折
など、骨自体に痕跡が残っていれば、外力が加わった可能性を調べることができます。
ただし、
骨折があるから、それが死因
とは限りません。
白骨遺体から分かることはこちらで詳しく解説しています。
白骨化した遺体から何がわかる?DNA・身元・死亡時期・死因の鑑定を解説
身元が判明しても死因が不明なことはある
ニュースで、
「DNA鑑定により身元は判明したものの、死因は不明」
と報じられることがあります。
これは矛盾ではありません。
身元確認は「誰か」を調べる
DNAや歯科記録などを使って、
「この遺体は誰なのか」
を確認します。
死因究明は「なぜ死亡したか」を調べる
一方、
「なぜ死亡したのか」
については、
- 解剖
- 病理検査
- 薬物検査
- 現場状況
などから判断します。
つまり、
誰なのかを特定する技術
と
死亡原因を特定する技術
は目的が違います。
遺体の一部から身元を確認する仕組みはこちらで解説しています。
遺体の一部しか見つからなくても身元はわかる?DNA鑑定と個人識別の仕組みを解説
死因不明なら殺人事件にはできない?
ここも気になるところです。
死因が分からないからといって、
必ず犯罪ではない
とも、
必ず殺人である
とも言えません。
他の証拠から死亡の経緯を調べる
死因が医学的に特定できなくても、
- 血痕
- 防犯カメラ
- スマホの記録
- 証言
- 被疑者の供述
などから死亡の経緯を調べることがあります。
遺体の状態だけが証拠ではない
殺人事件を立証する際には、法医学的な死因だけではなく、多くの客観的証拠が使われます。
そのため、
死因不明=捜査終了
というわけではありません。
死体遺棄を認めてもなぜすぐ殺人罪にならない?殺人と死体損壊・遺棄の違いを解説
でも、この違いを詳しく解説しています。
「死亡時期不明」と「死因不明」は違う
ニュースでは、
「死因・死亡時期ともに不明」
と報じられることがあります。
この2つも別の意味です。
死因
なぜ亡くなったのか
という原因です。
死亡時期
いつ頃亡くなったのか
という時間です。
死因が分かっていても死亡日時が分からないケースもあります。
逆に、最後に生存が確認された記録などから死亡時期がかなり絞れていても、死因が分からない場合もあります。
つまり、
「いつ」と「なぜ」は別々に調べる
必要があります。
死因不明でも後から判明することはある?
あります。
最初の検案や解剖だけでは分からなくても、
- 病理検査
- 薬物検査
- 毒物検査
- 詳細な画像解析
などの結果から死因が判明する場合があります。
最初は「検索中」とされることもある
厚生労働省は、検案直後に検査結果が判明しておらず死因を確定できない場合、
「不詳(検索中)」
として死体検案書などを交付し、その後の検査結果を踏まえて死因を確定・変更する仕組みを示しています。
つまり、ニュースで最初に「死因不明」と報じられても、
永久に分からないと決まったわけではありません。
最終的に死因が分からないこともある
一方で、詳しく調べても最後まで死因が特定できない場合もあります。
医学や科学捜査が進歩していても、
すべての死亡原因を必ず特定できるわけではありません。
特に、
- 発見まで長期間経過している
- 白骨化している
- 臓器が残っていない
- 死因を示す特徴的な痕跡がない
などの場合には難しくなります。
その場合は、
「不詳」
という結論になることがあります。
これは調査をしていないという意味ではなく、
調査しても科学的に断定できなかった
ということです。
まとめ
ニュースで使われる「死因不明」とは、
死亡原因が存在しないのではなく、医学的に原因を特定できていない状態
を意味します。
ポイントをまとめると、
- 死亡した事実と死因が分かることは別
- 死亡状態で発見され死因が分からない場合は死体検案が行われることがある
- 解剖では臓器や内部の損傷などを調べる
- 司法解剖をしても必ず死因が分かるとは限らない
- 病理検査や薬物・毒物検査も使われる
- 検査結果が出るまで「不詳(検索中)」になる場合がある
- 白骨化すると臓器や皮膚などの情報が失われる
- 身元が判明しても死因が分からないことはある
- 死因不明と死亡時期不明は別
- 死因が分からなくても他の証拠から犯罪捜査は続けられる
- 最終的に「不詳」と判断される場合もある
という点が重要です。
ニュースで、
「司法解剖したが死因不明」
と聞くと、
「ちゃんと調べたの?」
と思うかもしれません。
しかし解剖とは、死亡した瞬間を再現できるものではありません。
遺体に残された情報から原因を探す方法です。
そして時間の経過によってその情報が失われていれば、
詳しく調べても、科学的に断定できないことがある
のです。
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