事件現場のニュースや刑事ドラマでは、
「血痕の飛び散り方から事件の状況を分析する」
という場面があります。
壁に細かな血痕がある。
床に大きな血だまりがある。
血液が一定方向へ飛んでいる。
こうした違いを見ると、
「血の形だけで何が起きたか分かるの?」
と思いますよね。
実際、科学捜査には血痕パターン分析と呼ばれる分野があります。
血液が、
- 落下した
- 飛散した
- 物に付着した
- 別の場所へ移された
などによって生じる血痕の特徴を調べ、事件現場で何が起きた可能性があるのかを検討します。
ただし重要なのは、
血痕の形だけで「凶器はこれ」「犯人はこの人」と断定できるわけではない
ということです。
血痕パターン分析には限界もあり、専門家同士で判断が異なる場合もあります。
この記事では、血痕の形から何が分かるのか、科学捜査ではどのように利用されているのかを解説します。
血痕パターン分析とは?
血痕パターン分析とは、
血液がどのような物理現象によってその場所へ付着したのかを調べる方法
です。
英語では「Bloodstain Pattern Analysis」、略してBPAと呼ばれます。
血液も液体として動く
血液は液体なので、
- 重力
- 速度
- 方向
- 衝突
- 表面の材質
などの影響を受けます。
そのため同じ血液でも、落ち方や飛び方によって血痕の形が変わります。
事件現場の再構成に使われる
血痕の、
- 大きさ
- 形
- 数
- 配置
- 方向
などを確認することで、
どのような出来事によって血痕ができた可能性があるのか
を検討します。
血液が落ちる角度によって形はどう変わる?
血液の形を見るときに重要なのが、
血液が表面へどのような角度で当たったか
です。
垂直に近く落ちると丸くなりやすい
血液がほぼ真上から水平な面へ落ちた場合、比較的円形に近い血痕になることがあります。
これは液滴が面へほぼ垂直に衝突するためです。
ただし表面が粗い場合などは、きれいな円形にならないこともあります。
斜めから当たると細長くなりやすい
一方、斜め方向から血液が面へ当たると、血痕は楕円形や細長い形になることがあります。
こうした形状は、
血液がどちらの方向から飛んできたのか
を考える手掛かりになります。
血痕から飛んできた方向はどう調べる?
血痕の形や配置から、血液が移動してきた方向を推定できる場合があります。
ただし、一つの血痕だけを見て決めるわけではありません。
血痕の長さや向きを確認する
斜めに付着した血痕は、円形ではなく細長い形になる場合があります。
その長さや向きなどから、血液がどの方向へ移動していた可能性があるのかを検討します。
複数の血痕を組み合わせる
一つの血痕よりも、
多数の血痕の方向を組み合わせる
ことが重要です。
複数の血痕について方向や角度を検討することで、血液が発生したと考えられる範囲を推定する場合があります。
血液が飛び始めた場所はどう推定する?
血痕パターン分析では、血液がどのあたりから飛散したのかを考える場合があります。
ただし、
一点をピンポイントで正確に特定できるとは限りません。
複数の血痕の方向を逆にたどる
複数の血痕について、
「どちらから飛んできたのか」
を推定します。
その方向を逆にたどっていくことで、血液が発生した可能性がある範囲を検討します。
表面の材質も考慮する
同じ角度で血液が当たっても、
- ガラス
- タイル
- 木材
- 布
- 紙
など、表面によって広がり方が変わります。
そのため、血痕の形だけを単純に計算して判断するわけではありません。
血痕にはどんな種類がある?
血痕はすべて同じ原因でできるわけではありません。
大きく見ると、
重力で落ちた血痕、力が加わって飛散した血痕、物が接触して移った血痕
などがあります。
重力によってできる血痕
傷口などから血液が自然に滴り落ちると、床などに点状の血痕ができます。
歩きながら出血していた場合には、複数の血痕が連続して残ることがあります。
また、同じ場所へ血液が流れ続けると、血だまりができることもあります。
こうした血痕の場所や広がりも、現場状況を考える材料になります。
力が加わって飛散した血痕
血液が存在する場所へ何らかの力が加わると、液滴となって周囲へ飛散する場合があります。
血痕の大きさや分布、方向などから、
血液に力が加わった可能性
を検討することがあります。
ただし、
「この血痕なら必ずこの凶器」
と血痕だけから決められるわけではありません。
異なる出来事でも似た血痕パターンが生じる可能性があります。
物が接触してできる血痕
血液そのものが飛んだのではなく、
血液の付いた手や物が別の場所へ触れる
ことで血痕が移る場合もあります。
たとえば、
- 手
- 衣服
- 物
などに付着した血液が壁や床へ移るケースです。
また、すでに存在していた血痕へ物が触れることで、血液が引き延ばされたり形が崩れたりすることもあります。
そのため、
最初からその形だったのか、後から何かが触れたのか
も分析の対象になります。
血痕が途中で途切れていたら何が分かる?
血液が付着している部分だけでなく、
血痕がない部分
も事件現場を考える手掛かりになる場合があります。
たとえば周囲には血液が飛んでいるのに、一部分だけ血痕がない場合があります。
その場所に当時、
- 人
- 家具
- その他の物
などが存在し、血液を遮った可能性が考えられることがあります。
その物が後から移動されていれば、
現場の状態が発生時とは変わっている可能性
を考える材料になることもあります。
ただし、血痕がない理由は一つとは限らないため、他の証拠と合わせて判断します。
血痕から人の位置や姿勢は分かる?
血痕の高さや飛散方向などから、
血液が発生したおおよその位置
を考えることがあります。
たとえば血痕の分布から、
「比較的高い位置で血液が発生した可能性がある」
「床に近い位置だった可能性がある」
と検討することがあります。
しかし、
血痕だけで被害者が立っていた、座っていた、倒れていたと完全に再現できるわけではありません。
事件現場では、
- 人の動き
- 衣服
- 家具
- 壁
- 床
- 複数回の出血
など、多くの要素が影響します。
そのため位置や姿勢の推定にも幅があります。
血痕から出来事の順番が分かることはある?
血痕同士や他の痕跡との重なり方から、
どちらが先に生じた可能性があるのか
を検討できる場合があります。
血痕同士の重なりを見る
ある血痕の上へ別の血液が付着していれば、両者の前後関係を考える材料になる場合があります。
ただし、乾燥状態や現場の変化なども考慮する必要があります。
足跡や物の移動などと組み合わせる
血痕の上に足跡や接触痕が残っていれば、
「血液が付着した後に誰かが通った可能性」
などを検討できます。
そのため、
- 血痕
- 足跡
- 指紋
- 家具の位置
- 防犯カメラ
などを組み合わせて、事件の時間的な流れを考えます。
拭き取られた血痕でも分析できる?
血痕が清掃されていても、微量な痕跡が残っている場合があります。
肉眼では見えなくなった血液を探す方法の一つがルミノール反応です。
血痕は洗っても消えない?ルミノール反応でどこまで分かるのかを解説
でも詳しく解説しています。
ただし、清掃によって元の血痕形状そのものが崩れてしまえば、
血液が存在していた可能性を確認できても、元の飛散パターンまでは分析できない
場合があります。
つまり、
「血液があったことを探す検査」
と、
「血液がどのように飛んだのかを分析すること」
は同じではありません。
血痕から誰の血なのか分かる?
血痕パターン分析だけでは、
誰の血なのかは分かりません。
血痕の形を見ることと、血液の人物を特定することは別の検査だからです。
誰に由来する血液なのかを調べる場合、資料の状態によってはDNA型鑑定が行われます。
血痕から十分なDNAが得られれば、
- 被害者
- 容疑者
- その他の人物
などのDNA型と比較できる場合があります。
DNA鑑定はどこまで正確?一致したら本人確定なのかをわかりやすく解説
で詳しく解説しています。
つまり、
血痕パターン分析=どう付着した可能性があるか
DNA型鑑定=誰に由来する可能性があるか
という役割の違いがあります。
血痕パターン分析にはどんな限界がある?
血痕パターン分析は、事件現場を考える重要な手掛かりです。
一方で、
分析結果を絶対視しないこと
も重要です。
現場が複雑だと判断も難しくなる
実際の現場では、
- 複数回の出血
- 人の移動
- 家具や壁
- 異なる表面材質
- 清掃や接触
などが重なります。
血痕が一つの原因だけで形成されているとは限りません。
そのため、分析には専門的な判断が必要になります。
専門家同士で結論が異なる場合がある
海外で行われた大規模研究では、同じ血痕パターンを分析しても、分析者同士で判断が一致しないケースが確認されています。
つまり、
血痕パターン分析=入力すれば一つの正解が自動的に出る検査
ではありません。
そのため現在も、分析方法や報告方法の標準化が進められています。
血痕だけで凶器や犯行方法を特定できる?
刑事ドラマでは、
「この血痕なら鈍器」
「この飛び方ならこの方法」
と即座に結論を出す場面があります。
実際の科学捜査は、もっと慎重です。
似た血痕が異なる原因で生じる場合がある
一つの血痕パターンについて、複数の形成原因が考えられることがあります。
そのため、
血痕の見た目だけで一つの原因に限定しない
ことが重要です。
遺体の傷や他の証拠と比較する
実際には、
- 遺体の傷
- 現場にある物
- 衣服
- DNA
- 指紋
- 防犯カメラ
- 供述
などと血痕を比較します。
血痕パターン分析は、事件全体を構成する証拠の一つとして利用されます。
血痕は供述の裏付けになる?
なる場合があります。
たとえば本人が、
「この場所で被害者が出血した」
と供述していたとします。
その場所から実際に血痕が発見され、さらにDNA型が被害者と一致すれば、
供述を裏付ける材料
になる可能性があります。
逆に、
供述している場所や状況と、実際の血痕分布が大きく矛盾していれば、
「供述は本当に正しいのか」
を検討する必要があります。
自供だけで有罪になる?裏付け捜査とは何をするのかをわかりやすく解説
でも詳しく解説しています。
遺体がない事件でも血痕は重要?
特に遺体が見つかっていない事件では、現場に残った血痕が重要な証拠になる場合があります。
たとえば、
- 大量の血痕
- 被害者のDNA
- 防犯カメラ
- スマホ記録
- 関係者の供述
などを組み合わせることで、被害者に重大な出来事が起きた可能性を検討します。
遺体がなくても殺人事件として立件できる?「遺体なき殺人」と証拠の考え方を解説
でも解説しています。
ただし、
血痕がある=殺人が起きた
と単純に判断できるわけではありません。
けがなど他の原因で血液が残る場合もあるため、事件全体の証拠を見る必要があります。
血痕パターン分析で分かること・分からないこと
血痕の形は多くの情報を持っていますが、万能ではありません。
ここを分けて考えることが重要です。
分かる可能性があること
血痕の状態から、
- 血液が落下した可能性
- 血液が飛散した方向
- 血液が発生したおおよその範囲
- 物が血液へ接触した可能性
- 血液を遮る物が存在した可能性
- 出来事の前後関係
などを考える手掛かりが得られる場合があります。
血痕だけでは分からないこと
一方、
- 誰が犯人なのか
- 誰の血なのか
- 正確な凶器
- 正確な死亡時刻
- 事件全体の経緯
などを、血痕の形だけで確定することはできません。
別の鑑定や証拠と組み合わせる必要があります。
まとめ
血痕の形や飛び散り方は、事件現場で何が起きたのかを考える重要な手掛かりになります。
ポイントをまとめると、
- 血痕パターン分析という科学捜査分野がある
- 血液は重力や速度、方向などの影響を受ける
- 垂直に近く落ちると円形の血痕になりやすい
- 斜めに当たると細長い血痕になる場合がある
- 複数の血痕から飛散方向を検討する
- 血痕には滴下・飛散・接触など複数の形成パターンがある
- 血痕のない部分も現場状況を考える手掛かりになる
- 重なり方から出来事の順番を検討できる場合がある
- ルミノール反応と血痕パターン分析は目的が違う
- 誰の血なのかを調べるにはDNA型鑑定などが必要
- 血痕だけで犯人や凶器を断定できない
- 専門家同士でも判断が異なる場合がある
- 他の科学捜査や供述と組み合わせて評価することが重要
という点が重要です。
刑事ドラマでは、
「血痕を見れば事件が全部分かる」
ように描かれることがあります。
しかし実際の血痕パターン分析は、
残された血痕から、起きた出来事の可能性を少しずつ絞っていく作業
です。
DNA、遺体の傷、指紋、防犯カメラ、スマホ、供述など、別の証拠と組み合わせることで、事件全体の姿を確認していくのです。
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参考
- National Institute of Justice「Bloodstain Pattern Analysis」
- National Institute of Justice「Study Reports Error Rates for Bloodstain Pattern Analysis」
- NIST「Standards for Bloodstain Pattern Analysis」

