ニュースで、
「遺体の一部が発見され、DNA鑑定で身元が判明した」
という報道を見ることがあります。
すると、
「全部の遺体が見つかっていないのに、どうして本人だと分かるの?」
「小さな骨だけでもDNAは取れる?」
「家族のDNAと比べれば分かるの?」
と疑問に思いますよね。
結論からいうと、遺体の一部しか見つかっていなくても、骨や歯などから必要な情報が得られれば、身元確認につながる可能性があります。
科学警察研究所では、骨や歯などの人体硬組織を使った個人識別について研究・鑑定が行われています。
また、日本の死因究明制度でも、身元確認のために、
- 遺伝子構造の検査
- 歯の調査
- その他の科学的調査
を活用することが法律上位置付けられています。
ただし、
「骨が一つ見つかれば必ず本人が特定できる」
というわけではありません。
資料の状態や、比較できる情報があるかどうかによって結果は変わります。
この記事では、遺体の一部しか見つからない場合に、警察や法医学ではどのように身元を確認するのかを解説します。
遺体の一部だけでも身元確認できることがある
身元確認では、必ずしも全身がそろっている必要はありません。
重要なのは、
発見された資料から、個人を識別できる情報が得られるか
です。
骨からDNA型を調べられる場合がある
DNAは血液や唾液だけにあるわけではありません。
骨の細胞にもDNAがあります。
そのため、状態が良ければ、一部の骨からDNAを取り出してDNA型を調べられる場合があります。
歯も重要な資料になる
歯は非常に硬いため、時間が経過した遺体でも残っていることがあります。
歯の内部などからDNAを調べられる場合があります。
さらに歯そのものにも、
- 治療跡
- 詰め物
- 被せ物
- 抜歯の状況
- 歯並び
などの個人差があります。
そのため、DNAとは別に歯科記録との比較にも使われます。
頭蓋骨などから個人識別できる場合もある
科学警察研究所では、白骨遺体の頭蓋骨と身元候補者の生前写真を重ねるスーパーインポーズ法なども研究・鑑定に使われています。
つまり、DNAだけではなく、
骨の形そのもの
も身元確認の手掛かりになることがあります。
DNA鑑定では何を調べている?
「DNA鑑定」と聞くと、
「DNAを調べれば名前まで分かる」
ように感じるかもしれません。
しかし、DNAそのものに氏名が書いてあるわけではありません。
DNA型を比較する
DNA型鑑定では、特定の部分の特徴を調べて比較します。
科学警察研究所では、STR型検査などを利用したDNA型による個人識別の研究・鑑定が行われています。
基本的な考え方は、
発見された資料のDNA型と、比較対象となるDNA型が一致するか
を見ることです。
比較する相手が必要になる
たとえば、
「この骨は行方不明になっているAさんではないか」
という可能性が出たとします。
Aさん本人の比較資料があれば、それとDNA型を比較できます。
本人の資料がない場合でも、家族との比較が身元確認の手掛かりになることがあります。
家族のDNAから本人だとわかるの?
本人のDNA資料がなくても、血縁者のDNAを使って身元確認できる場合があります。
親子ではDNAの一部を共有している
子どもは父親と母親からDNAを受け継ぎます。
そのため、
- 親
- 子ども
- 兄弟姉妹
などのDNA型を調べると、親族関係として矛盾しないかを確認できます。
1人だけより複数の親族がいるほうが有力になる場合がある
DNAの比較では、どの親族と比較できるかによって得られる情報量が変わります。
親子など近い血縁関係ほど、身元確認に有用な情報が得られることがあります。
複数の親族から比較資料を得られる場合もあります。
ただし、
家族と似ているDNAだから即座に100%本人確定
という単純な仕組みではありません。
DNA型の結果だけでなく、ほかの情報も合わせて判断します。
行方不明者のDNA資料は警察にある?
行方不明者の場合、身元確認のためのDNA型資料が活用される制度があります。
特に、生命・身体への危険がある「特異行方不明者」などでは、身元確認のためにDNA型資料が使われる場合があります。
そのため、後から身元不明の遺体や骨が見つかった場合、
行方不明者側の情報と照合する
ことが可能になるケースがあります。
行方不明届についてはこちらで詳しく解説しています。
行方不明届を出すと警察はどこまで調べる?捜索されるケースと仕組みを解説
つまり、行方不明者の捜索と、後に発見された身元不明遺体の確認は、別々のものではなくつながる場合があります。
DNAが取れれば必ず身元が分かる?
ここは誤解しやすいポイントです。
DNA型が得られても、それだけで自動的に氏名まで判明するわけではありません。
比較対象がなければ名前は分からない
DNA型は非常に強力な個人識別手段ですが、
「このDNAは山田太郎さんです」
とDNAだけが教えてくれるわけではありません。
比較する、
- 本人資料
- 親族資料
- 身元候補者
などが必要になります。
DNAが劣化している場合もある
骨や歯からDNAを調べられる場合がある一方で、状態によっては難しくなります。
DNAは、
- 長期間の経過
- 高温
- 水
- 微生物
- 周囲の環境
などの影響で劣化します。
そのため、すべての骨から十分なDNA型が得られるとは限りません。
汚染にも注意が必要
発見された資料には、ほかの人のDNAなどが付着する可能性もあります。
科学捜査では、そのような影響を避けながら資料を採取・検査する必要があります。
DNA以外ではどうやって身元を確認する?
身元確認はDNAだけに頼るものではありません。
日本の死因究明等推進基本法でも、身元確認の科学調査として遺伝子検査だけでなく歯牙の調査などが挙げられています。
歯科記録と比較する
生前に歯科医院で治療していれば、
- レントゲン写真
- 治療した歯
- 詰め物
- 被せ物
- インプラント
などの記録が残っている場合があります。
発見された遺体の歯と比較することで、身元確認の重要な手掛かりになります。
骨から年齢や性別を推定する
骨の特徴から、
- 性別
- 年齢
- 身長
などを推定できる場合があります。
たとえば、
「男性・40~60歳程度・身長170cm前後」
という情報が分かれば、行方不明者の候補を絞る材料になります。
白骨遺体から分かることについてはこちらで詳しく解説しています。
白骨化した遺体から何がわかる?DNA・身元・死亡時期・死因の鑑定を解説
所持品も手掛かりになる
遺体と一緒に、
- 時計
- 指輪
- 財布
- 衣服
- 靴
- メガネ
などが見つかることがあります。
これらも身元候補を絞る手掛かりになります。
ただし、
所持品が本人のものだから遺体も本人
と即断することはできません。
科学的な確認と組み合わせます。
骨が一つだけでも何か分かる?
発見されるのが全身とは限りません。
一つの骨だけという場合もあります。
骨の種類によって得られる情報が違う
たとえば骨盤は性別推定に役立ちやすく、脚の長い骨は身長推定に使える場合があります。
頭蓋骨は性別や個人識別の手掛かりになることがあります。
つまり、
どの骨が見つかったか
によって分かることが変わります。
DNA型が得られれば身元確認につながる可能性がある
骨の一部でも、DNA型検査に使える資料が残っていれば個人識別につながる可能性があります。
そのため、
「ほんの一部しかないから身元確認できない」
とは一概にいえません。
発見された複数の遺体の一部が同じ人かも分かる?
離れた場所から複数の骨などが発見された場合、
これらが同じ人物のものなのか
という問題も出てきます。
DNA型を比較できる
それぞれの資料からDNA型を取得できれば、同じ人物に由来する可能性があるかを比較できます。
科学警察研究所は、現場資料と対照資料からDNA型を検出して異同を識別することがDNA型鑑定の基本だと説明しています。
つまり、
遺体の一部同士を結び付ける
ためにもDNA型が利用される場合があります。
骨の特徴も確認する
DNAだけでなく、
- 骨の大きさ
- 年齢
- 性別
- 左右
- 解剖学的な特徴
なども確認します。
複数の情報を合わせて判断します。
DNA鑑定で死因まで分かる?
これは別問題です。
DNA型鑑定が得意なのは、
「誰の資料なのか」
を調べることです。
一方、
「なぜ死亡したのか」
を調べるのは死因究明です。
身元確認と死因究明は別
法律上も、
- 身元確認
- 死因究明
はそれぞれ区別されています。
身元がDNAで特定できても、死因までDNAから分かるわけではありません。
遺体の一部だけだと死因が分かりにくい場合がある
たとえば骨の一部しか見つからず、死因につながる臓器や損傷部位が残っていなければ、死亡原因を判断できない可能性があります。
そのためニュースでは、
「身元は判明したが死因は不明」
という状態があり得ます。
これは矛盾ではありません。
身元が判明すると捜査はどう変わる?
身元不明だった遺体について、
「誰なのか」
が分かると、捜査で調べられる範囲が大きく広がります。
行方不明になった時期を確認できる
本人がいつから行方不明だったのか分かれば、死亡時期を考える手掛かりになります。
最後の行動を調べられる
身元が分かれば、
- 最後に誰と会ったか
- スマホをいつまで使っていたか
- 防犯カメラにいつまで映っていたか
- 車をどこで使ったか
などを確認できます。
警察が行動履歴をどのように調べるのかはこちらで解説しています。
警察はどうやって行動履歴を特定する?スマホやデータ分析の仕組みを解説
人間関係も確認できる
本人が分かれば、
- 家族
- 勤務先
- 友人
- 交際関係
などについても事情を確認できます。
つまり、身元確認は事件の終点ではなく、
死亡するまでに何があったのかを調べる出発点
になる場合があります。
遺体の一部が見つかっただけで殺人事件になる?
遺体の一部が見つかったからといって、それだけで殺人事件と決まるわけではありません。
死亡原因が、
- 事故
- 病気
- 自殺
- 他人による行為
のどれなのかを調べる必要があります。
一方で、遺体が人為的に損壊されたり、隠されたりした疑いがあれば、死体損壊や死体遺棄など別の犯罪が問題になる場合があります。
死体損壊・遺棄と殺人が別の犯罪になる理由についてはこちらで解説しています。
遺体の扱いで罪はどう変わる?死体遺棄・損壊などの違いをわかりやすく解説
この違いを知ると、
「遺体を処理したことが分かっているのに、なぜまだ死亡原因を捜査しているの?」
というニュースの見方も分かりやすくなります。
身元確認は一つの証拠だけで決めない
DNA鑑定は非常に有力ですが、実際の身元確認ではさまざまな情報を組み合わせます。
たとえば、
- DNA型
- 歯科記録
- 骨の特徴
- 年齢
- 性別
- 身長
- 顔写真
- 所持品
- 行方不明者情報
- 発見場所
などです。
一つの情報だけに頼るより、複数の独立した情報が一致するほど身元確認の確度が高まります。
つまり、
「DNA鑑定で分かった」
というニュースの裏側では、実際には多くの情報が確認されている場合があります。
まとめ
遺体の一部しか見つからない場合でも、身元確認できる可能性があります。
ポイントをまとめると、
- 骨や歯からDNA型を調べられる場合がある
- DNA型は本人資料や親族資料と比較できる
- DNAだけで自動的に氏名が判明するわけではない
- 歯科記録も重要な身元確認手段になる
- 頭蓋骨と生前写真を比較する方法もある
- 骨から性別・年齢・身長を推定できる場合がある
- 一部の骨だけでも個人識別につながる可能性がある
- 複数の遺体片が同じ人物かどうかもDNA型などで比較できる場合がある
- 身元確認と死因究明は別の問題
- 身元が分かっても死因が不明な場合はある
- 身元が判明すると行方不明時期や行動履歴などを詳しく調べられる
という点が重要です。
ニュースで、
「遺体の一部をDNA鑑定した結果、行方不明者と判明した」
と聞くと不思議に感じるかもしれません。
しかし、骨や歯には個人識別に使える情報が残っている場合があります。
そして身元確認は、事件を解決する最後の作業ではありません。
「誰なのか」が分かることで、初めて「いつ・どこで・なぜ亡くなったのか」を詳しく調べられるようになる
のです。
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