事件のニュースでは、
「現場から血痕を採取した」
「押収した物を鑑定している」
といった表現がよく出てきます。
でも考えてみると、
「見つけた証拠はそのまま袋に入れるの?」
「誰かが触ったらDNAや指紋が混ざらない?」
「警察署で調べるの?科捜研へ送るの?」
「裁判までどうやって証拠だと分かるようにしているの?」
と疑問に思いますよね。
事件現場の証拠は、
見つけるだけでは意味がありません。
どこで見つかったのかを記録し、適切に採取し、混同や汚染を防ぎながら保管し、その後の鑑定へつなげる必要があります。
警察庁も、事件発生時には現場の証拠物を迅速に確保し、適正に証拠化するための鑑識活動が重要だとしています。
この記事では、事件現場の証拠が発見されてから、採取・保存・鑑定されるまでの流れを解説します。
事件現場では最初に何をする?
事件現場では、いきなり物を拾い集めるわけではありません。
まず重要なのは、
現場そのものをできるだけ元の状態で確認すること
です。
現場への出入りを管理する
多くの人が自由に現場へ出入りすると、
- 足跡が増える
- 指紋が付く
- DNAが混入する
- 物の位置が変わる
といった問題が起こる可能性があります。
そのため、事件との関係が疑われる場所では立入りを管理しながら捜査・鑑識活動を進めます。
証拠を動かす前に記録する
証拠物を採取する前には、
- 発見場所
- 向き
- 周囲との位置関係
- 状態
などを確認します。
写真撮影などによって、
「元々どこに、どのような状態で存在していたのか」
を残すことが重要です。
現場ではどんなものが証拠として採取される?
事件の種類によって、採取される資料は大きく異なります。
警察庁の科学警察研究所では、血痕・体液・組織・毛髪など、犯罪現場に残されたさまざまな資料を対象に研究や鑑定を行っています。
人の体に由来する資料
代表的なのが、
- 血痕
- 唾液などの体液
- 毛髪
- 皮膚片
- その他の組織
です。
これらからDNA型などを調べられる場合があります。
人以外の物的証拠
生体資料以外にも、
- 指紋
- 足跡
- 工具痕
- 繊維
- 薬物
- 文書
- デジタル機器
など、多くの物が証拠になり得ます。
つまり、
事件現場では「何が重要か分からない小さな痕跡」も含めて確認する
必要があります。
証拠物を採取するときのポイントは?
証拠は、ただ持ち帰ればよいわけではありません。
後で分析できる状態を保つ必要があります。
発見場所との関係を記録する
同じ血痕でも、
- 床にあった
- 壁にあった
- 衣服にあった
では意味が変わる場合があります。
そのため、証拠物そのものだけではなく、
どこにあったのか
という情報も重要です。
別の証拠と混ざらないようにする
複数の資料が混ざってしまうと、
「どこから採取したものなのか」
が分からなくなる可能性があります。
そのため個々の証拠を区別し、それぞれの資料がどこから得られたのか分かるように管理します。
DNA資料ではなぜ汚染防止が重要?
DNA型鑑定では、非常に微量な生体資料が分析対象になることがあります。
そのため、関係のないDNAが混入すると結果の解釈が複雑になる可能性があります。
捜査員などのDNAが混ざる可能性がある
人は、
- 皮膚片
- 唾液
- 毛髪
などを周囲に残すことがあります。
そのため、資料を扱う際には不要な接触を避けながら採取します。
複数人のDNAが混ざることもある
もともと複数の人が触っていた物では、複数人のDNAが検出される場合があります。
科学捜査では、
DNAが見つかったという事実だけでなく、どのような資料から、どのような状態で得られたのか
も重要です。
DNA鑑定はどこまで正確?一致したら本人確定なのかをわかりやすく解説
でも詳しく解説しています。
血痕はどう扱われる?
血痕は、DNAだけでなく事件状況を考えるうえでも重要な証拠です。
そのため、血液そのものと付着している場所の両方を確認します。
血液かどうかを検査する
赤い染みがあったとしても、
見た目だけで血液とは断定できません。
必要に応じて検査を行い、人の血液なのか、どのような体液なのかを調べます。
科学警察研究所でも、犯罪現場の生体資料について体液種の確認や人獣鑑別などの研究・鑑定を行っています。
血痕の形も記録する
血痕は、
- 大きさ
- 形
- 向き
- 分布
なども事件状況を考える手掛かりになります。
そのため、単に血液だけを採取して終わりではありません。
血痕の形から何がわかる?飛び散り方で事件状況は判断できるのかを解説
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指紋はどう採取・保存する?
指紋も代表的な現場資料です。
肉眼で見える指紋だけでなく、見えない潜在指紋を探すこともあります。
潜在指紋を可視化する
材質などに応じて、
- 粉末
- 化学的処理
- 特殊な光
などを使い、見えなかった指紋を確認することがあります。
写真や資料として記録する
指紋が確認できれば、その状態を記録し、比較可能な資料として扱います。
その後、生前資料や警察が保有する比較対象などと照合される場合があります。
指紋はどれくらい残る?拭いた後でも見つかることはあるのかを解説
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証拠物はどうやって保管する?
証拠物は鑑定まで状態を保つ必要があります。
そのため、すべてを同じ方法で保存するわけではありません。
資料の性質に合わせて管理する
証拠には、
- 生体資料
- 紙
- 金属
- 衣類
- 薬物
などさまざまな種類があります。
それぞれ劣化の仕方が違うため、資料に適した状態で管理する必要があります。
誰の何の資料か分かるようにする
重要なのは、
採取した資料と事件現場とのつながりが分からなくならないこと
です。
証拠物は、どこから採取されたのかなどの情報とともに扱われます。
同じような見た目の資料が複数あっても混同しない管理が必要です。
証拠物の記録が重要なのはなぜ?
科学鑑定が正しくても、
「この資料は本当に事件現場から採取したものなのか」
が分からなければ、証拠としての意味が弱くなってしまいます。
発見から鑑定までの経緯を確認できるようにする
証拠物については、
- どこで見つかったか
- どのように採取されたか
- どの資料なのか
などを管理します。
これによって後から、
鑑定した資料と現場資料が同じものなのか
を確認できるようにします。
取り違えを防ぐ
DNAや血液などは見た目だけでは区別が難しい場合があります。
そのため記録を残し、資料の取り違えを防ぐことが重要です。
鑑識と科捜研は何が違う?
ニュースやドラマでは「鑑識」と「科捜研」がよく登場しますが、役割には違いがあります。
鑑識は現場で証拠を発見・採取する
鑑識活動では主に、
- 写真撮影
- 指紋
- 足跡
- 証拠物の発見
- 採取
などを行います。
警察庁は事件発生時に、機動鑑識隊や現場科学検査班などによる現場鑑識活動を行っているとしています。
科捜研は資料を科学的に分析する
都道府県警察の科学捜査研究所では、現場などから得られた資料について専門的な鑑定を行います。
分野には、
- DNA
- 化学
- 薬物
- 文書
- 画像
などがあります。
つまり大まかには、
鑑識=現場から証拠を見つける
科捜研=証拠を科学的に調べる
という役割の違いがあります。
科学警察研究所と科捜研は同じ?
名前が似ていますが、同じ組織ではありません。
科学捜査研究所は都道府県警察にある
一般に「科捜研」と呼ばれる科学捜査研究所は、都道府県警察で科学鑑定を担当します。
事件現場から得られた証拠資料を分析します。
科学警察研究所は警察庁の研究機関
科学警察研究所は警察庁の研究機関です。
警察庁によると、
- 科学捜査の研究
- 高度な鑑定・検査
- 都道府県警察の鑑定職員への研修
などを担当しています。
さらに附属鑑定所では、指定された鑑定・検査の集中処理も行っています。
科捜研ではどんな鑑定をする?
科学捜査では、証拠物の種類によって専門分野が分かれます。
生物系の鑑定
生体資料では、
- 血痕
- 体液
- 毛髪
- 組織
- DNA
などを調べます。
科学警察研究所の生物第四研究室では、犯罪現場から採取された血痕・体液斑・組織などからDNA型を分析する研究・鑑定を行っています。
化学・工学などの鑑定
事件によっては、
- 薬物
- 化学物質
- 火災
- 文書
- 画像
などの分析が必要になることもあります。
科学警察研究所では複数の法科学分野について研究や鑑定、技術研修が行われています。
DNA鑑定では何を比較する?
DNA型鑑定では、
現場資料だけを調べても人物名が出てくるわけではありません。
比較が重要です。
現場資料からDNA型を調べる
血痕や組織などからDNA型を検出します。
比較対象となる資料と照合する
そのDNA型を、
- 被害者
- 被疑者
- 身元確認対象者
などの比較資料と照合します。
科学警察研究所も、DNA型鑑定では現場資料と対照資料双方のDNA型を検出し、異同識別を行うことで有効な鑑定情報が得られると説明しています。
鑑定結果だけで犯人が決まる?
いいえ。
科学鑑定は重要ですが、
鑑定結果=犯人確定
ではありません。
証拠が残った理由を考える必要がある
たとえば物から本人のDNAが見つかっても、
- 普段から触っていた
- 事件以前に触れた
- 正当な理由でそこにいた
可能性があります。
指紋でも同じです。
他の証拠と組み合わせる
実際の捜査では、
- 防犯カメラ
- スマホ
- 供述
- 目撃情報
- DNA
- 指紋
- 血痕
などを組み合わせます。
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証拠が汚染・劣化するとどうなる?
現場資料は、発見された瞬間と同じ状態で永久に残るわけではありません。
環境によって変化します。
DNAなどが劣化することがある
DNAは、
- 熱
- 水分
- 紫外線
- 微生物
などの影響を受けます。
劣化が進むと十分なDNA型を得られない場合があります。
別の資料が混ざると解釈が難しくなる
複数人のDNAや痕跡が混ざると、分析がより複雑になることがあります。
そのため、
採取後だけでなく、採取する瞬間から適切に扱う
ことが重要です。
鑑定結果が間違うことはない?
科学鑑定も、人や機器が関わる以上、適切な品質管理が重要です。
警察では鑑定技術の標準化や研修も行っています。
検査方法そのものを検証する
科学警察研究所では、新しいDNA検査キットや機器、ソフトウェアなどを実務導入する際に検証を行っています。
目的は、分析方法の信頼性を維持することです。
鑑定職員の研修も行われる
科学警察研究所の法科学研修所では、全国の鑑識・科学捜査研究所などの鑑定職員に対して継続的な研修を実施しています。
つまり科学鑑定は、
機械に入れれば自動的に絶対の答えが出るものではなく、検査方法や技術者の品質管理も含めて成り立っている
のです。
事件現場から鑑定までの流れ
ここまでを整理すると、証拠はおおむね次のような流れで扱われます。
現場で証拠を発見・記録する
まず、
- 発見場所
- 状態
- 周囲との位置関係
などを記録します。
必要に応じて写真撮影なども行います。
採取・管理して鑑定へつなぐ
その後、
- 証拠物を採取
- 他の資料と区別
- 適切に管理
- 専門部署で鑑定
という流れになります。
鑑定結果は、供述や防犯カメラなど他の証拠と照合され、事件の立証に利用されます。
事件現場の証拠から分かること・分からないこと
現場証拠は非常に重要ですが、一つの痕跡だけですべてが分かるわけではありません。
証拠から分かる可能性があること
科学鑑定によって、
- 誰に由来するDNAか
- 誰の指紋である可能性があるか
- 人の血液なのか
- どのような物質なのか
- 複数の資料が同じ由来か
などを検討できる場合があります。
証拠だけでは分からないこと
一方、
- なぜその場所にあったのか
- 正確にいつ残されたのか
- それだけで誰が犯人なのか
- 事件のすべての経緯
まで分かるとは限りません。
そのため、
証拠の科学的意味と、事件全体の意味を分けて考える
必要があります。
まとめ
事件現場の証拠は、
見つける→記録する→採取する→管理する→鑑定する
という流れで扱われます。
ポイントをまとめると、
- 現場への不要な立入りを防ぐことが重要
- 証拠を動かす前に場所や状態を記録する
- 血痕、DNA、指紋、毛髪などさまざまな資料を採取する
- DNA資料では汚染防止が重要
- 血痕は血液そのものだけでなく形や位置も重要
- 指紋は潜在指紋を可視化する場合がある
- 証拠は資料の性質に合わせて管理する
- どこから得た証拠なのか分かるよう記録する
- 鑑識は主に現場での証拠発見・採取を担当する
- 科捜研は資料の科学的な鑑定を行う
- 科学警察研究所は研究・高度な鑑定・研修などを担当する
- DNA型鑑定では現場資料と比較資料を照合する
- 科学鑑定だけで犯人が決まるわけではない
- 汚染や劣化によって分析が難しくなる場合がある
- 検査方法や鑑定職員の品質管理も重要
- 最終的には他の証拠と組み合わせて事件を立証する
という点が重要です。
事件報道では、
「DNAが検出された」
「現場から証拠物を押収した」
という結果だけが短く報じられることがあります。
しかし、その前には、
どこで見つかったのかを記録し、適切に採取し、混同や汚染を防ぎ、科学的に分析する
という多くの段階があります。
事件現場に残された小さな痕跡を「裁判でも意味を持つ証拠」へつなげるためには、
証拠そのものだけでなく、発見から鑑定まで適切に扱うこと
も非常に重要なのです。
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