事件のニュースでは、
「防犯カメラをたどって容疑者の足取りを捜査した」
という表現をよく聞きます。
でも、
「一台のカメラにずっと映っているわけじゃないのに、どうやって追うの?」
「顔が映っていなくても分かる?」
「何キロも離れた場所まで追えるの?」
「映像はいつまで残っているの?」
と疑問に思いますよね。
現在の警察捜査では、防犯カメラ映像は事件関係者の足取り確認や被疑者の特定、犯行の立証などに広く活用されています。
警察庁の令和7年版警察白書でも、防犯カメラ画像などを解析して犯人の特定や追跡に活用していることが紹介されています。
ただし、
警察が一つの巨大なカメラ網で全国の人をリアルタイム追跡している
という意味ではありません。
事件に関係すると考えられる場所や時間帯の映像を集め、
「この場所の次はどこへ向かったのか」
を一つずつつないでいく捜査が行われます。
この記事では、防犯カメラ映像から警察がどのように足取りを確認するのか、どこまで分かり、どこからは分からないのかを解説します。
防犯カメラは事件捜査でどう使われる?
防犯カメラは、事件が起きた瞬間だけを見るものではありません。
犯行の前後を含めて確認することで、事件関係者の動きを調べる材料になります。
犯行前後の行動を確認する
たとえば事件現場付近の映像から、
- いつ現れたのか
- どちらから来たのか
- どちらへ移動したのか
などを確認できる場合があります。
事件そのものが映っていなくても、
現場へ来るまでの行動や、現場から離れた後の行動
が重要な証拠になることがあります。
人物や車両の特徴を確認する
映像に、
- 人物
- 自動車
- バイク
- 自転車
などが映っていれば、その特徴を確認します。
ただし、一つの特徴だけで人物を確定するのではなく、複数の映像や他の証拠と照合します。
警察は複数の防犯カメラをどうやってつなぐ?
一台のカメラだけで人物を長時間追えるケースは多くありません。
そこで、周囲にある複数の映像をつないでいきます。
時刻と移動方向を照合する
たとえば、
あるカメラに午後8時10分、人物が東方向へ歩いている様子が映っていたとします。
次に進行方向周辺の映像を確認し、
同じ特徴を持つ人物が少し後の時間に映っていないかを調べます。
このように、
場所・時刻・移動方向
を組み合わせながら足取りを確認します。
次のカメラへ順番につなげる
別のカメラに同じ人物や車両と考えられる対象が映っていれば、その先の映像を調べます。
こうして、
カメラA → カメラB → カメラC
というように移動をつないでいきます。
警察庁の警察白書では、このように複数の防犯カメラ画像を順番につないで追跡する方法を「リレー方式」と表現した事例も紹介されています。
防犯カメラだけで何百キロも追えることはある?
事件によっては、かなり離れた場所まで映像をつないで捜査することがあります。
200キロ規模で追跡した事例もある
警察庁が公表している令和6年版警察白書では、三重県の強盗殺人事件で、現場周辺の映像から不審車両を特定し、
現場から約200キロメートルにわたって「リレー方式」で防犯カメラ画像を追跡した
事例が紹介されています。
車両の走行状況や立ち寄り先を明らかにし、捜査につなげたとされています。
距離より「途中の映像があるか」が重要
ただし、
「警察なら必ず200キロ追える」
という意味ではありません。
実際には、
- カメラが設置されているか
- 必要な時間帯の映像が残っているか
- 対象を識別できる画質か
などによって追跡できる範囲は変わります。
顔が映っていなくても追える?
場合によっては可能です。
防犯カメラ映像で確認するのは顔だけではありません。
服装や持ち物も手掛かりになる
映像から、
- 服装
- 靴
- バッグ
- 帽子
- 体格
などを確認できる場合があります。
複数の映像で同じ特徴が続いていれば、同じ人物である可能性を検討する材料になります。
移動の連続性も確認する
単に、
「同じ色の服を着ている」
だけでは同一人物とは限りません。
そこで、
- 時刻
- 移動方向
- 位置関係
- 周辺の人物や車両
なども合わせます。
つまり、
映像の特徴と移動の流れをセットで見る
ことが重要です。
車は防犯カメラからどう追われる?
車両も事件捜査で重要な手掛かりになります。
人物より特徴を確認しやすいケースもあります。
車種や外見的な特徴を確認する
映像から、
- 車種
- 色
- 車体形状
- ナンバープレート
- 特徴的な外観
などを確認できる場合があります。
ただし、撮影角度や画質によって読み取れないこともあります。
通過時刻や立ち寄り先をつなぐ
複数地点の映像から、
「この時間にこの道路を通った」
「その後、この場所へ立ち寄った」
といった移動を確認できる場合があります。
人物と同様、
一枚の映像ではなく移動履歴として見る
ことが重要です。
防犯カメラ以外の映像も使われる?
使われる場合があります。
現在は店舗や街頭の固定カメラだけが映像資料ではありません。
ドライブレコーダーの映像
警察庁は、防犯カメラが設置されていない場所でも、
通行車両のドライブレコーダー映像を収集・解析し、被疑者の特定などに活用している
としています。
道路上で発生した事件などでは重要な資料になる可能性があります。
その他の映像記録
事件によっては、施設や交通機関などに残された映像も捜査材料になります。
つまり「防犯カメラ捜査」といっても、
一種類のカメラだけを見るわけではありません。
映像が暗かったりぼやけていても分かる?
画質が悪い映像でも、分析できる場合があります。
警察では画像解析技術も利用しています。
画像を見やすくする処理が行われる
防犯カメラ映像は、
- 暗い
- 解像度が低い
- 対象が小さい
などの理由で見づらい場合があります。
警察庁では、防犯カメラなどに記録された低照度・低画質の画像を見やすくする技術の研究を行っています。
多数の画像を効率的に調べる研究もある
警察大学校の警察情報通信研究センターでは、
多数の画像から、
- 人物
- 車両
- 特異な出来事
などを効率的に抽出する画像処理技術の研究も行われています。
大量の映像を扱う必要があるため、こうした画像分析技術も重要になっています。
画像を鮮明化すれば何でも見えるようになる?
いいえ。
ここは刑事ドラマと実際の捜査で誤解されやすい部分です。
元の映像にない情報は作れない
画像処理によって、
- 明るさ
- コントラスト
- 見やすさ
などを改善できる場合があります。
しかし、
元の映像に記録されていない細部を無限に復元できるわけではありません。
撮影条件によって限界がある
たとえば、
- 顔がほとんど映っていない
- 対象が非常に小さい
- 強くぼけている
- 遮蔽物に隠れている
場合などは、鮮明化しても識別できないことがあります。
画像解析にも限界があります。
防犯カメラの映像は何日くらい残る?
これは一律ではありません。
警察庁も、
保存期間は施設や機種によって異なる
としています。
数日程度で上書きされるものもある
多くの録画装置は、保存容量がいっぱいになると古い映像から上書きします。
警察庁によると、保存期間が数日程度と短いものもあります。
そのため事件が判明するまで時間がかかると、必要な映像がすでに消えている場合があります。
すべてのカメラに同じ保存期間はない
「防犯カメラは必ず30日残る」
というような共通ルールがあるわけではありません。
保存期間は、
- 録画装置
- 画質
- 保存容量
- 管理方法
などによって異なります。
そのため警察は、必要な映像をできるだけ早く収集・分析する体制を進めています。
防犯カメラがない場所では足取りが途切れる?
映像上では一時的に追えなくなる場合があります。
しかし、それだけで捜査全体が終わるわけではありません。
別の場所で再び映像を探す
ある地点で映像が途切れても、
その先の道路や駅、店舗などに別の映像がないか確認する場合があります。
時間や移動距離から次の候補地点を検討します。
映像以外の証拠とも組み合わせる
捜査では、
- スマホなどの記録
- 車両に関する情報
- 目撃情報
- 交通機関の記録
- DNA
- 指紋
なども使われます。
つまり、
防犯カメラだけで完全な一本線を作る必要はありません。
他の証拠で空白部分を補える場合があります。
防犯カメラとスマホの記録はどう組み合わせる?
映像とデジタル記録が同じ動きを示せば、行動履歴を確認する強い材料になる場合があります。
映像の時刻と記録を比較する
たとえば防犯カメラに、
「午後8時ごろ、この場所を通過した人物」
が映っていたとします。
他の記録にも同じ時間帯・地域に関する情報があれば、両者を照合します。
一つの記録だけに頼らない
重要なのは、
映像と他の証拠が同じ行動を示しているか
です。
警察が行動履歴をどのように調べるのかについては、
警察はどうやって行動履歴を特定する?スマホやデータ分析の仕組みを解説
でも詳しく解説しています。
防犯カメラ映像は供述の裏付けになる?
なる場合があります。
映像は、人の記憶とは別に残された客観的な記録だからです。
供述した行動と映像を比較する
たとえば、
「午後8時には別の場所にいた」
という供述があったとします。
その時間帯の映像に本人と考えられる人物が映っていれば、供述内容との整合性を確認する材料になります。
映像だけで全てを判断するわけではない
一方、
映像に人物が映っていないからといって、
絶対にそこへ行っていない
とは限りません。
カメラの、
- 撮影範囲
- 画角
- 録画状態
などによって映らないこともあります。
自供だけで有罪になる?裏付け捜査とは何をするのかをわかりやすく解説
でも解説しています。
防犯カメラに映ったら本人確定?
これも慎重に考える必要があります。
顔や特徴だけでは判断が難しい場合がある
映像の画質が悪ければ、別人との区別が難しいことがあります。
帽子やマスクなどで顔の一部が確認できないケースもあります。
他の証拠と合わせて本人か確認する
実際には、
- 顔
- 服装
- 移動
- 車両
- スマホなどの記録
- 指紋
- DNA
などを合わせて判断します。
つまり、
防犯カメラは非常に重要ですが、映像一枚で全てが決まるわけではありません。
防犯カメラから分かること・分からないこと
防犯カメラ映像は非常に多くの情報を持っています。
しかし万能ではありません。
映像から分かる可能性があること
映像から、
- 人物がいた場所
- おおよその時刻
- 移動方向
- 服装や持ち物
- 車両
- 犯行前後の動き
- 別地点への移動
などを確認できる場合があります。
映像だけでは分からないこと
一方、
- 映っている人物の意図
- なぜそこへ行ったのか
- カメラに映っていない時間の行動
- 必ず本人であるか
- それだけで犯罪を行ったか
まで映像だけで確定するとは限りません。
他の証拠との照合が必要です。
まとめ
警察は防犯カメラ一台だけを見て人物を追跡しているわけではありません。
複数の映像について、
場所・時刻・人物や車両の特徴・移動方向
を照合しながら足取りをつないでいきます。
ポイントをまとめると、
- 防犯カメラは被疑者の特定や犯行の立証などに利用される
- 犯行そのものだけでなく前後の行動も確認する
- 複数のカメラを時刻と移動方向でつなぐ
- リレー方式で長距離を追跡した事例もある
- 顔だけでなく服装や持ち物も手掛かりになる
- 車種や車両の動きも調べる
- ドライブレコーダー映像が使われる場合もある
- 低画質映像を解析する技術も利用される
- 鮮明化しても元映像にない情報まで復元できるわけではない
- 防犯カメラの保存期間は施設や機種によって異なる
- 数日程度で上書きされる場合もある
- 映像が途切れても別の証拠で補うことがある
- スマホなどの記録と組み合わせる場合もある
- 防犯カメラ映像は供述の裏付けになることがある
- 映像一枚だけで本人や犯行が確定するとは限らない
という点が重要です。
ニュースで、
「防犯カメラをたどって足取りを確認した」
と一言で報じられることがあります。
しかし実際には、
ある映像で確認した人物や車両を、時間と移動方向を手掛かりに別の映像へつないでいく
という地道な作業があります。
現代の事件捜査では、防犯カメラは単なる「犯行の瞬間を撮るカメラ」ではありません。
事件の前後に残された移動の記録をつなぎ、人物や車両の行動を再構成する証拠
として重要な役割を持っているのです。
関連記事
- 警察はどうやって行動履歴を特定する?スマホやデータ分析の仕組みを解説
- 事件現場の証拠はどう保存される?鑑識から鑑定までの流れを解説
- 指紋はどれくらい残る?拭いた後でも見つかることはあるのかを解説
- DNA鑑定はどこまで正確?一致したら本人確定なのかをわかりやすく解説
- 自供だけで有罪になる?裏付け捜査とは何をするのかをわかりやすく解説

