大雨で川が増水すると、ニュースで、
- 堤防が決壊した
- 越水が確認された
- 堤防が洗掘された
- 堤防から漏水している
といった言葉を聞くことがあります。
でも、そもそも川の堤防はなぜ壊れるのでしょうか。
「水が堤防より高くなったら、上からあふれるだけでは?」
「土でできた堤防に水がしみ込んだだけで壊れるの?」
と疑問に思う人もいるでしょう。
国土交通省では、一般的な堤防決壊の主なメカニズムとして、
- 越水
- 侵食・洗掘
- 浸透
の3つを示しています。
しかも実際の決壊では、これらが一つだけ起こるとは限りません。
例えば高い水位が長く続き、堤防内部へ水がしみ込み、さらに越水が始まり、裏側が削られるというように、複数の要因が重なることもあります。
この記事では、川の堤防がなぜ決壊するのか、越水・洗掘・浸透の違い、パイピングとは何か、決壊すると何が危険なのかまでわかりやすく解説します。
- 堤防決壊とは?
- 堤防が決壊する主な3つの原因
- 越水で堤防が決壊するのはなぜ?
- 「水が上を流れるだけ」でなぜ壊れる?
- 洗掘とは?
- 越水と洗掘は何が違う?
- 浸透で堤防が壊れるのはなぜ?
- 雨が長引くと浸透が危険になる?
- パイピングとは?
- 堤防の反対側から水が出てきたら危険?
- 越水・洗掘・浸透は同時に起きる?
- 越水したら必ず堤防は決壊する?
- 堤防が決壊しなくても洪水になる?
- 堤防が決壊すると何が危険?
- 決壊すると一気に穴が広がるのはなぜ?
- 大雨のとき堤防の状態はどう確認する?
- 氾濫危険水位になったら堤防は壊れる?
- 堤防から離れていれば安全?
- 堤防決壊と内水氾濫は違う?
- 2000年東海豪雨では何が起きた?
- 堤防決壊が心配なとき何をする?
- 洪水への備えで準備しておきたいもの
- 堤防決壊についてよくある質問
- まとめ|堤防は越水・洗掘・浸透など複数の仕組みで壊れる
- 関連記事
堤防決壊とは?
気象庁では「決壊」を、河川の増水によって堤防が壊れることとしています。
単に川の水があふれることとは違う
川の水が堤防を越えて外へ流れ出ることを一般に越水といいます。
一方、堤防そのものが壊れることが決壊です。
つまり、
越水=水が堤防を越える
決壊=堤防そのものが壊れる
という違いがあります。
越水が決壊の原因になることもある
越水と決壊は別の現象ですが、越水した水が堤防を削り、その結果として決壊することがあります。
そのため「まだ堤防は壊れていないから、越水だけなら安全」という意味ではありません。
堤防が決壊する主な3つの原因
国土交通省では、堤防決壊の代表的な原因として、
| 原因 | 何が起きる? |
|---|---|
| 越水 | 川の水が堤防を越え、反対側を削る |
| 洗掘・侵食 | 強い流れが堤防や河岸を削る |
| 浸透 | 水が堤防や地盤内部へ入り、弱くする |
という3つがあります。
それぞれ仕組みが違います。
越水で堤防が決壊するのはなぜ?
最もイメージしやすいのが越水です。
川の水が堤防の高さを超える
大雨によって川の水位が上がり続けると、水面が堤防の上端に近づきます。
さらに水位が上がると、川の水が堤防を越えて住宅地側へ流れ始めます。
これが越水です。
堤防の裏側が強い水で削られる
越水した水は、堤防の上から住宅地側の斜面を勢いよく流れ落ちます。
その水によって、堤防の住宅地側の斜面や、その根元である法尻が削られます。
これが進むと堤防の形を維持できなくなり、崩壊へ至る場合があります。
「水が上を流れるだけ」でなぜ壊れる?
堤防は、水が上から大量に流れ続けることを前提にした構造ではありません。
堤防の裏側は流れに削られる
堤防の川側は普段から水に接する可能性があります。
一方、住宅地側へ大量の河川水が流れ落ちる状態は通常ではありません。
越水した水が斜面を高速で流れると、表面の土や芝などが失われ、その下の土まで削られることがあります。
根元を削られると上部も崩れやすい
特に法尻が削られると、その上にある堤防を支えにくくなります。
小さな崩壊が始まり、さらに水がそこへ集中すると、短時間で崩壊範囲が広がることがあります。
洗掘とは?
洗掘とは、水の流れによって川底や堤防周辺の土砂が削り取られる現象です。
強い水流が堤防を直接削る
洪水時には川の流れが速くなり、水の力も強くなります。
流れが堤防の川側へ強く当たり続けると、堤防の表面や根元が侵食されることがあります。
カーブなどでは流れが集中する場合がある
河川の曲がりや地形によっては、水流が特定の場所へ強く当たりやすくなる場合があります。
そこで洗掘が進むと、堤防を支える土が失われ、決壊につながる可能性があります。
越水と洗掘は何が違う?
どちらも水によって堤防が削られますが、起きる場所と原因が違います。
| 現象 | 主な原因 | 削られやすい場所 |
|---|---|---|
| 越水 | 水が堤防を越える | 住宅地側の斜面・法尻 |
| 洗掘 | 強い河川流 | 川側の堤防・河岸・根元 |
ただし実際の洪水では両方が同時に進む可能性もあります。
浸透で堤防が壊れるのはなぜ?
見た目では分かりにくいのが浸透です。
高い川の水が堤防内部へしみ込む
川の水位が高い状態が長時間続くと、水が堤防内部やその下の地盤へしみ込みます。
大雨自体も堤防上部から内部へ水を供給します。
土が水を含むと強度が低下する
堤防内部の水位が上がると、土が持っている強さが低下する場合があります。
すると住宅地側の斜面がすべり、崩壊につながることがあります。
雨が長引くと浸透が危険になる?
なります。
高い水位が長く続くほど水が入りやすい
短時間だけ川の水位が上がる場合より、高い水位が何時間も続く方が堤防内部へ水が浸透する時間が長くなります。
さらに何日も雨が続いていれば、堤防自体が雨水を含んでいる場合もあります。
長時間大雨では「水位の高さ+時間」が重要
堤防にとっては、最高水位だけでなく、高い水位がどのくらい続いたかも重要です。
長雨の後半ほど条件が悪化する場合があるのは、このためでもあります。
▶ 長時間大雨はなぜ危険?総雨量が増えると土砂災害・浸水・洪水が起きやすい理由
パイピングとは?
浸透による堤防被害でよく出てくる言葉がパイピングです。
堤防の下に水の通り道ができる
高い河川水位によって水が地盤へ浸透すると、川とは反対側まで水圧が伝わることがあります。
その結果、地盤内の細かな土砂が水と一緒に流れ出す場合があります。
水みちが少しずつ広がる
土砂が流出すると、その部分に水が通りやすい空間ができます。
さらに土砂流出が続くと水みちが拡大し、堤防やその下の地盤を支えられなくなっていきます。
最終的には堤防が落ち込んだり崩れたりして、決壊へ至る可能性があります。
堤防の反対側から水が出てきたら危険?
洪水時に堤防の住宅地側で水がしみ出している場合、漏水などの可能性があります。
水だけで原因を自己判断しない
地下水や雨水など別の原因の場合もあるため、見ただけでパイピングと断定することはできません。
洪水中は堤防へ近づかない
異常を確認するために堤防へ近づくのは危険です。
河川管理者や自治体から避難情報が出ている場合は、その指示を確認してください。
越水・洗掘・浸透は同時に起きる?
起きることがあります。
実際の決壊原因は一つとは限らない
洪水時には、
- 川の水位が高くなって浸透が進む
- 強い流れで川側が洗掘される
- さらに水位が上がって越水する
というように複数の現象が重なる場合があります。
決壊後の調査で原因を検証する
実際の災害では、越水痕跡、地盤状況、洗掘状況、漏水痕跡などを調査して決壊メカニズムが検証されます。
そのため災害直後に原因が確定していない段階で、特定の原因を断定しないことも重要です。
越水したら必ず堤防は決壊する?
必ずではありません。
越水しても決壊しない場合はある
越水の水深、継続時間、堤防の構造、表面の状態などによって結果は異なります。
越水したものの堤防本体が残るケースもあります。
ただし越水は非常に危険
決壊しなくても、川の水が住宅地側へ流れ出している時点で氾濫しています。
さらに越水が続けば堤防が侵食され、決壊へ進む可能性もあります。
堤防が決壊しなくても洪水になる?
なります。
越水だけでも水は住宅地へ入る
堤防が壊れていなくても、川の水位が堤防を超えれば水は外へ流れ出します。
そのため「決壊していない=浸水しない」ではありません。
無堤部から水があふれることもある
場所によっては堤防がない区間もあります。
川の水位が上がることで、そこから周辺へ水が広がる場合もあります。
▶ 外水氾濫と内水氾濫の違いは?洪水・浸水が起きる仕組みをわかりやすく解説
堤防が決壊すると何が危険?
決壊すると、川の水が決壊口から住宅地側へ大量に流れ込みます。
強い流れが住宅地へ入る
水が静かにたまるだけではありません。
決壊地点付近では勢いの強い洪水流が発生し、住宅や車などへ大きな力が加わる可能性があります。
浸水範囲が急速に広がることがある
低地では大量の水が広範囲へ流れ込み、短時間で浸水深が増える場合があります。
このため、決壊を確認してから避難を始めるのでは遅い場合があります。
決壊すると一気に穴が広がるのはなぜ?
堤防の一部が崩れると、そこへ川の流れが集中します。
決壊口へ大量の水が流れ込む
小さな崩壊部分ができると、水はそこを通りやすくなります。
すると強い流れによって周囲の土がさらに削られます。
侵食が連鎖して決壊幅が拡大する
削られた部分へさらに水が集中することで、決壊口が広がっていくことがあります。
このため決壊発生後は状況が急激に悪化する可能性があります。
大雨のとき堤防の状態はどう確認する?
自分で堤防へ確認しに行くのではなく、防災情報を利用します。
河川水位を確認する
国土交通省の川の防災情報などでは、河川水位や河川カメラを確認できます。
水位が避難判断水位や氾濫危険水位へ近づいていないか確認します。
指定河川洪水予報を確認する
大きな河川ではレベル3氾濫警報、レベル4氾濫危険警報などが発表されます。
現在地が危険な場所にある場合は、レベル5になるまで待たずに行動することが重要です。
▶ 川の水位はどこで見る?洪水キキクル・河川カメラ・水位情報の見方を解説
氾濫危険水位になったら堤防は壊れる?
必ず壊れるという意味ではありません。
氾濫による被害のおそれが高い水位
氾濫危険水位は、洪水によって相当の家屋浸水などの被害が起こるおそれが高まった重要な水位です。
堤防決壊そのものを予告する数字ではありません。
「壊れるまで待つ」のではない
氾濫危険水位は2026年現在、レベル4に位置付けられています。
危険な場所では、堤防が実際に壊れたか確認してから避難するのではなく、それ以前に避難判断をする必要があります。
▶ 川の「氾濫危険水位」とは?避難判断水位との違い・警戒レベルをわかりやすく解説
堤防から離れていれば安全?
必ずしもそうとは限りません。
洪水は低い土地へ広がる
堤防が決壊すると、水は地形に沿って低い地域へ広がります。
川から数km離れていても浸水想定区域に入っている場所があります。
ハザードマップで確認する
自宅から川までの距離だけで判断せず、洪水ハザードマップで、
- 浸水想定区域
- 想定浸水深
- 家屋倒壊等氾濫想定区域
などを確認することが重要です。
堤防決壊と内水氾濫は違う?
違います。
堤防決壊は川の水が外へ出る外水氾濫
堤防が決壊し、川の水が住宅地側へ流れ込むのは外水氾濫です。
内水氾濫は街の雨を排水できない
内水氾濫は、大雨で下水道や排水施設が処理しきれなくなったり、川の水位が高くて排水できなくなったりして街側に水がたまる現象です。
川の堤防が壊れていなくても発生します。
▶ 内水氾濫とは?川が決壊していないのに街が水没する理由をわかりやすく解説
2000年東海豪雨では何が起きた?
日本の都市型水害を考えるうえで重要な事例の一つが2000年の東海豪雨です。
新川の堤防が決壊
東海豪雨では愛知県を中心に記録的な大雨となり、新川で堤防決壊が発生しました。
周辺では大規模な浸水被害が発生しています。
堤防決壊と都市の浸水を考える事例
大雨では河川そのものの氾濫だけでなく、市街地の排水能力や支川などさまざまな要因が重なります。
堤防決壊の仕組みと合わせて過去の災害を知ることは、水害への理解につながります。
堤防決壊が心配なとき何をする?
川へ見に行かない
越水や漏水、堤防の異常を自分で確認するために川へ近づくのは危険です。
河川水位や河川カメラなど、オンライン情報を利用してください。
ハザードマップと避難情報を確認する
自宅が洪水浸水想定区域にある場合は、自治体の避難情報や河川の警戒レベルを確認します。
特に夜間や猛烈な雨になる前に、避難経路を確認しておくことが重要です。
洪水への備えで準備しておきたいもの
情報を確認するための用品
大雨時にはスマートフォンで河川水位やキキクルを確認することが多くなります。
停電に備えてモバイルバッテリー、防災ラジオ、防水ライトなどを準備しておくと役立ちます。
避難時の持ち出し用品
飲料水、常用薬、身分証明書、防水バッグなども平常時からまとめておくと、急な避難でも動きやすくなります。
堤防決壊についてよくある質問
川の堤防はなぜ決壊するのですか?
主な原因として、越水、侵食・洗掘、浸透があります。実際には複数の要因が重なって決壊する場合もあります。
越水とは何ですか?
川の水位が堤防より高くなり、水が堤防を越えて外へ流れ出ることです。
越水したら必ず決壊しますか?
必ずではありません。ただし越水した水によって堤防の住宅地側が削られ、決壊へ進む可能性があります。
洗掘とは何ですか?
強い水流によって堤防や河岸、川底などの土砂が削られる現象です。
浸透だけで堤防が壊れることはありますか?
あります。堤防内部へ水が入り、土の強度が低下したり、パイピングによって土砂が流出したりすることで崩壊につながる場合があります。
パイピングとは何ですか?
堤防の下などへ浸透した水によって土砂が流出し、水の通り道が形成・拡大して地盤が不安定になる現象です。
堤防が決壊しなくても洪水になりますか?
なります。越水や堤防のない区間から水があふれれば、堤防が壊れていなくても外水氾濫が発生します。
堤防が決壊する前に分かりますか?
必ず事前に決壊そのものを予測できるとは限りません。河川水位、洪水予報、キキクル、自治体の避難情報などを使い、決壊確認を待たずに避難判断することが重要です。
まとめ|堤防は越水・洗掘・浸透など複数の仕組みで壊れる
堤防決壊についてまとめると、
- 堤防決壊とは河川の増水などによって堤防が壊れること
- 主な原因は越水・洗掘・浸透
- 越水すると住宅地側の斜面や法尻が削られる
- 洗掘では強い河川流が堤防や河岸を削る
- 浸透では堤防内部の水位が上がり土が弱くなる
- パイピングでは地盤内の土砂が流出する
- 複数の原因が重なる場合もある
- 越水しても必ず決壊するとは限らない
- 決壊しなくても越水だけで洪水は起こる
- 決壊すると決壊口が急速に広がる場合がある
- 川から離れていても浸水する場所がある
- 決壊を確認してから避難するのでは遅い場合がある
ということになります。
堤防は単に「川の水より高い土の壁」ではありません。
洪水時には、強い水流、高い水圧、長時間の浸透など、さまざまな力が同時に加わります。
特に覚えておきたいのは、
「堤防がまだ壊れていない=安全」ではない
ということです。
越水の時点ですでに川の水は外へ流れ出していますし、氾濫危険水位などの段階では決壊前でも非常に危険な状況になっている可能性があります。
大雨時は川へ状況を見に行かず、河川水位、洪水予報、キキクル、自治体の避難情報を利用して、早めに安全を確保してください。
関連記事
▶ 2000年東海豪雨はなぜ大被害に?新川決壊・都市型水害とその後の対策を解説
▶ 外水氾濫と内水氾濫の違いは?洪水・浸水が起きる仕組みをわかりやすく解説
▶ 川の「氾濫危険水位」とは?避難判断水位との違い・警戒レベルをわかりやすく解説
▶ 川の水位はどこで見る?洪水キキクル・河川カメラ・水位情報の見方を解説
▶ 雨が止んだのに川の水位が上がるのはなぜ?上流の雨が時間差で流れてくる仕組みを解説
▶ 長時間大雨はなぜ危険?総雨量が増えると土砂災害・浸水・洪水が起きやすい理由
▶ 内水氾濫とは?川が決壊していないのに街が水没する理由をわかりやすく解説
▶ 越水と決壊の違いは?堤防が壊れていなくても浸水する理由を解説

