ニュースで個人情報流出について調べていると、時々出てくるのが「名寄せ」という言葉です。
「名前を寄せるってどういう意味?」
「個人情報が名寄せされると何が怖いの?」
と疑問に思う人も多いでしょう。
名寄せとは簡単にいえば、別々に存在しているデータを照合して、同じ人・同じ会社の情報としてまとめることです。
実は名寄せそのものは犯罪行為ではありません。
企業が顧客データを整理するときなどにも普通に行われる処理です。
しかし、個人情報流出の話になると意味が変わってきます。
たとえば、
「氏名と住所」
しか分からないデータと、
「電話番号とメールアドレス」
しか分からないデータが別々に存在していても、それらが同じ人物のものだと分かれば、
氏名+住所+電話番号+メールアドレス
という、より詳しい個人情報になります。
これが、個人情報流出で「名寄せ」が警戒される理由です。
この記事では、名寄せとはどのような仕組みなのか、何が危険なのか、そして私たちは何に注意すればよいのかをわかりやすく解説します。
名寄せとは?
名寄せとは、複数のデータの中から同じ人物や同じ企業に関する情報を見つけ、一つにまとめる作業のことです。
たとえば、ある会社に次のような顧客データがあったとします。
Aのデータ
- 山田太郎
- 東京都○○区
- 090-XXXX-XXXX
Bのデータ
- 山田 太郎
- 東京都○○区○○1-2-3
- taro@example.com
名前の間にスペースがあったり、住所の書き方が違ったりしますが、内容を照合すると同じ人物である可能性があります。
そこで、
- 氏名
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
などを比較して、同じ人物のデータとしてまとめます。
これが名寄せです。
IPA(情報処理推進機構)の情報処理技術者試験でも、名寄せは「同じ情報を表すデータを一つのデータにまとめる」処理として扱われています。
つまり、名寄せ自体は特殊な犯罪用語ではなく、データ管理の世界では一般的に使われる考え方なのです。
名寄せはどのように行われる?
名寄せでは、一つの情報だけを見て同一人物と判断するとは限りません。
複数の項目を照合しながら、「このデータとこのデータは同じ人物ではないか」と判断していきます。
氏名・住所・電話番号などを照合する
もっとも分かりやすいのが、同じ情報を手掛かりにする方法です。
たとえば、
データA
- 山田太郎
- 090-1234-XXXX
データB
- 山田太郎
- taro@example.com
- 090-1234-XXXX
という2つのデータがあれば、同じ電話番号が登録されているため、同じ人物である可能性が高くなります。
ほかにも、
- 氏名
- 生年月日
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
などが照合の手掛かりになります。
表記が違っていても同じ人物と判断できる場合がある
データは必ずしも完全に同じ形で保存されているとは限りません。
たとえば、
「東京都新宿区1丁目2番3号」
と、
「東京都新宿区1-2-3」
は表記が違います。
氏名についても、
「山田太郎」
「山田 太郎」
「ヤマダタロウ」
など、登録方法が異なることがあります。
このような表記の違いを調整しながら、同じ人物かどうかを判断することも名寄せの一部です。
複数の情報が一致すると結び付きやすくなる
一つの項目が一致しただけでは、同姓同名など別人の可能性があります。
しかし、
- 氏名が一致
- 生年月日も一致
- 電話番号も一致
- 住所の一部も一致
というように複数の情報が重なると、同じ人物だと判断しやすくなります。
ここが、個人情報流出を考えるうえでも重要なポイントです。
名寄せそのものは危険なものではない
「名寄せ」という言葉だけを見ると、何か怪しい作業のように感じるかもしれません。
しかし、名寄せそのものは企業や行政などでも使われる普通のデータ整理方法です。
たとえば同じ顧客が、
- 店舗で会員登録
- オンラインショップでも登録
- 問い合わせフォームからも登録
していれば、同じ人の情報が複数のデータベースに存在することがあります。
それを一人の顧客情報として整理するために名寄せが行われます。
個人情報保護委員会の資料でも、個人情報ファイルに同じ本人が重複して記録されている場合に「名寄せをした上で人数を計上する」という表現が使われています。
つまり問題なのは、名寄せという技術そのものではありません。
問題になるのは、流出した個人情報などが本人の意図しない形で結び付けられ、詐欺などに利用されるケースです。
個人情報流出で名寄せが怖い理由
個人情報の流出で警戒されるのは、一つの会社から大量の情報が漏れるケースだけではありません。
別々の場所から出た情報が、後から一人の人物の情報として結び付けられる可能性があるからです。
バラバラだった個人情報が一つにつながる可能性がある
たとえば過去に、
A社から
- 氏名
- 住所
B社から
- 電話番号
- メールアドレス
C社から
- 生年月日
- 利用サービス
がそれぞれ流出したとします。
これらが別々のデータのままなら、分かる情報には限界があります。
しかし共通する情報を手掛かりに同じ人物だと分かれば、
- 氏名
- 住所
- 生年月日
- 電話番号
- メールアドレス
- 利用サービス
が一人分の情報としてまとまる可能性があります。
これが、名寄せを理解すると個人情報流出の見え方が変わる理由です。
本物らしい詐欺を作りやすくなる
詐欺の電話で突然、
「山田さんですね」
と言われるだけなら、まだ疑う人は多いでしょう。
しかし、
「山田太郎さんですね」
「○○市にお住まいですね」
「以前○○というサービスをご利用されましたね」
など、自分しか知らないと思っていた情報を相手が知っていたらどうでしょうか。
「本物の会社なのでは?」
と思ってしまう人もいるはずです。
名寄せによって相手が知っている情報が増えると、詐欺の話に信ぴょう性を持たせやすくなることが危険の一つです。
「本人確認」という言葉を信じやすくなる
自分の氏名や住所を相手が知っていると、次に
「念のため本人確認をします」
と言われても不自然に感じにくくなります。
そこで、
- 生年月日
- 口座番号
- カード番号
- 暗証情報
- SMS認証コード
などを聞き出されれば、さらに重要な情報を相手へ渡してしまう可能性があります。
大切なのは、
相手が自分の個人情報を知っている=本物
ではないということです。
でも詳しく解説しています。
一度漏れた情報は別の事件でも使われる可能性がある
個人情報流出のニュースを見ると、その会社だけに注意すればよいと思いがちです。
しかし、流出した情報を持つ第三者が必ずその会社を名乗るとは限りません。
たとえば、
- 警察
- 銀行
- クレジットカード会社
- 市役所
- 通信会社
などを装うことも考えられます。
自分の氏名や住所などを正確に言われると信用しやすくなりますが、それだけで相手の身元は確認できません。
名寄せの手掛かりになりやすい個人情報
名寄せでは、人物同士を結び付ける手掛かりになる情報があります。
一つだけでは特定できなくても、複数組み合わせることで同一人物と判断しやすくなるものがあります。
電話番号やメールアドレス
電話番号やメールアドレスは、サービスをまたいで同じものを使う人が多い情報です。
たとえば複数のサービスに同じメールアドレスを登録していれば、それぞれのデータを結び付ける手掛かりになる場合があります。
電話番号も同様です。
そのため、知らない番号から電話が来て自分の名前を知られていても、それだけで相手を信用するべきではありません。
知らない番号への対応については、
迷惑電話・詐欺電話の完全対処ガイド|出るべき?折り返す?番号別に即判断
でも解説しています。
氏名・生年月日・住所
氏名だけでは同姓同名がいます。
生年月日だけでも同じ誕生日の人は多数います。
しかし、
氏名+生年月日+住所
のように複数の情報が一致すると、対象となる人物をかなり絞り込みやすくなります。
個人情報保護委員会も、氏名や生年月日などによって個人を識別できる情報だけでなく、他の情報と容易に照合することで特定の個人を識別できる情報も個人情報に含まれるとしています。
運転免許証番号などの個人識別符号
運転免許証番号、旅券番号などは、法律上「個人識別符号」に該当するものがあります。
単なる住所や電話番号とは性質が異なり、それ自体が個人を識別するための重要な情報です。
このため、本人確認書類の画像などが流出した事件では、単に「画像が1枚漏れた」と見るのではなく、そこにどのような情報が含まれているのかを見る必要があります。
名寄せされたら何でも分かってしまうの?
ここは誤解しやすいところです。
名寄せによって、誰かの情報が無制限に分かるようになるわけではありません。
基本的には、もともと存在するデータ同士を結び付けているだけです。
たとえば、
Aのデータに氏名と住所、
Bのデータに電話番号とメールアドレス、
しか存在しないのであれば、それを結び付けても、
- 氏名
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
までしか分かりません。
名寄せしたから突然、
- 銀行残高
- 暗証番号
- クレジットカード番号
- パスワード
まで分かるわけではありません。
ただし、複数のデータが積み重なるほど、その人について分かる情報が増える可能性はあります。
したがって、
「名寄せされたらすべて丸裸になる」
と必要以上に恐れる必要はありませんが、
「一つ一つでは意味の薄いデータでも、組み合わせると意味が大きくなる」
という点は覚えておく必要があります。
名寄せを利用した詐欺で注意したいこと
名寄せされた可能性があるかどうかを、一般の人が外から確認するのは簡単ではありません。
そこで重要なのは、「名寄せされたか」を探し続けることではなく、個人情報を知っている相手から連絡が来た場合の対応を決めておくことです。
相手が自分の名前を知っていても信用しない
電話の相手が、
「○○さんですよね」
と自分の名前を知っていると驚くかもしれません。
しかし、名前や電話番号が知られていること自体は、その相手が本物である証拠にはなりません。
名前だけでなく住所や生年月日を知っていたとしても同じです。
相手の身元は、相手が話す情報ではなく、こちら側から公式情報を使って確認することが重要です。
警察を名乗られてもその場で個人情報を追加しない
「あなたの個人情報が流出しています」
「あなた名義の口座が犯罪に使われています」
などと言われれば、不安になるでしょう。
しかも相手が自分の名前や住所まで知っていれば、さらに信じやすくなります。
しかし、そこで新たな個人情報や口座情報を渡してしまうと、相手が持っているデータをさらに充実させることになります。
警察を名乗る不審な連絡については、
も確認してください。
銀行やカード会社を名乗る電話も一度切る
「不正利用されています」
「口座を停止します」
などと言われると、すぐに対応したくなります。
しかし緊急性を強調して冷静に考える時間を与えないのは、詐欺で使われる典型的な方法の一つです。
いったん電話を切り、銀行の公式アプリや公式サイト、カード裏面など、自分で確認した連絡先から問い合わせる方法が安全です。
も参考にしてください。
個人情報流出が起きたときに意識したいポイント
個人情報流出のニュースを見るたびにパニックになる必要はありません。
重要なのは、何が漏れたのかを確認し、その情報を利用するとどのような連絡が作れるのかを考えることです。
「何件漏れたか」だけでなく「何が漏れたか」を見る
ニュースでは、
「○万人分流出」
「○百万件漏えい」
という数字が大きく報じられます。
もちろん件数も重要ですが、自分への影響を考えるときは情報の種類も重要です。
たとえば、
- メールアドレスだけ
- 氏名と住所
- 氏名・住所・電話番号・生年月日
- 本人確認書類の画像
では意味が異なります。
複数の情報がまとまっているほど、本人を狙った連絡を作りやすくなる可能性があります。
流出した会社だけを警戒しない
A社から情報が漏れたからといって、詐欺師がA社を名乗るとは限りません。
「銀行です」
「警察です」
「カード会社です」
など、別の組織を装うことも考えられます。
そのため、
「今回ニュースになった会社からの連絡だけ無視すれば大丈夫」
という考え方では十分ではありません。
知らない相手から本人確認や金銭に関する話が出た場合は、いったん立ち止まって確認しましょう。
こちらから新しい情報を足さない
相手が、
「住所は○○ですよね」
と言ったあと、
「念のため生年月日をお願いします」
と聞いてくることがあります。
ここで答えると、相手が知らなかった情報を自分から提供することになります。
これは非常に重要なポイントです。
相手がすでに知っている情報に驚いて、不足している情報を自分で補完しないようにしましょう。
名寄せを知ると個人情報流出の見方が変わる
個人情報は一つ一つを見ると、それほど重要に感じないことがあります。
「メールアドレスくらいなら」
「電話番号だけなら」
「住所くらい知られても」
と思う人もいるでしょう。
しかし、名寄せという仕組みを知ると見え方が変わります。
一つの情報だけでは人物を十分に把握できなくても、
氏名+住所+電話番号+メールアドレス+生年月日
のようにつながることで、より詳細な人物像ができる可能性があるからです。
これは「すべての流出情報が必ず名寄せされる」という意味ではありません。
また、名寄せされた情報が必ず犯罪に使われるわけでもありません。
ただ、情報流出を考えるときには、
「その会社から何が漏れたか」だけではなく、「ほかの情報と結び付いた場合にどうなるか」
という視点も持っておくと、なぜ個人情報保護が重要なのかが分かりやすくなります。
まとめ
名寄せとは、複数のデータを照合し、同じ人物や同じ企業の情報としてまとめる作業です。
名寄せそのものは、企業などが顧客データを整理する際にも使われる一般的な方法で、悪い行為ではありません。
ただし個人情報流出では、別々に存在していたデータが結び付くことで、より詳細な個人情報になる可能性があります。
ポイントをまとめると、
- 名寄せとは別々のデータを同じ人物の情報としてまとめること
- 氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどが手掛かりになる
- 一つでは意味の薄い情報も組み合わせると価値が変わる
- 名寄せされたからといって何でも分かるわけではない
- 個人情報を知っている相手でも本物とは限らない
- 電話で不足している個人情報を自分から追加しない
- 警察や銀行などを名乗られても公式窓口から確認する
という点が重要です。
個人情報流出のニュースを見たときに、「何万人漏れた」という数字だけではなく、
「どの情報とどの情報がつながる可能性があるのか」
を見るようにすると、リスクをより現実的に判断しやすくなります。
そして、相手が自分の名前や住所を知っていたとしても、それだけで信用しないこと。
これが、名寄せを悪用した詐欺から身を守るための基本になります。
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参考
- 個人情報保護委員会「個人情報・個人データに関するFAQ」
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報処理技術者試験・名寄せに関する出題資料」

